【小説】ハッピーハロウィン前夜

商店街の福引きで吸血鬼が当たったのでとりあえず家に連れてきた。本当に欲しかったのは一等のコーンスープ一年分だったんだけど五等の吸血鬼が当たったので。とりあえず。

ハロウィンだからじゃないか?

連れの友人に、なぜ商店街の福引きの景品に吸血鬼が混じっているのか尋ねたところそんな回答があったので、それはそうかもしれないんだけれど、だけどやっぱりそれはぼくの聞きたかった答えと少し違う気がするんだ。ちなみにそいつはぼくのすぐ後に電動機付き自転車を当てていた。明日はそれで小学校に登校してくるに違いないや。

「さっきから悲しそうな顔をしている」
「うん。ぼくはコーンスープ一年分が欲しかったからね」
「だけど俺は他の景品と交換できないんだぞ」
「わかってるよ。だからちゃんと家に連れてきたんじゃないか。おまえさ、なに食べるの?」
「鮭定食が好き」
「うそっ。血を飲ませろとか言われると思った。意外~」
「対外的にそうしたほうが良い時はそう発言しないこともないがな」
「苦労してきたんだ」
「まあな」
名前がないと呼びづらいので名前をつけることにする。
「何か自分で希望とかある?」
「俺は餡子が好きだからコシがいい」
「漉餡派か。ぼくとおんなじだ」
「それは良かった。じゃあ、おまえのこともコシって呼ぶ?」
「いや、ぼくはコーンスープが好きだから」
ちょうどそこで電話が鳴った。出ると先ほどの友人からで、
「なあ。さっきの吸血鬼まだいる?」
「まだって何」
「逃げられてないかなあとか思って。あのさ、今度うちで盛大なハロウィンパーティするんだけど、それ借りていいかな?」
電球のように。
まるで電球が切れたみたいに。
醤油みたいに。
まるで醤油が切れたみたいに。
「お礼におまえも招待してやるし」
ぼくの返事をきかず電話は切れた。

「俺、レンタルされて来るぞ」
黙り込んだぼくを見てコシが言った。
「大丈夫、大丈夫。俺、宴会、盛り上げ、ベリーすげー得意。いろんな国で、メニーメニー盛り上げ役やってきた。おまえに恥かかせないぞ。ネバー、恥ずかしい。モウマンタイでし。オーライ?」
ぼくは首を横にふった。
やなこった。
「なぜ?ホワイ?なにゆえホワイか?」
「ぼく、あいつのこと嫌いなんだ」
「あいつ?今、そのiPhoneにコーリングしてきたやつ?」
「そう」
「いつから嫌いか?」
「さっきから」
「そうなのか!」
コシはとても驚いた後で笑った。
ぼくもつられて笑った。
「じゃあ、ふたりで遊ぼうか」
「いいな、いいな。俺、いま、心臓のあったところとてもワクワクしてる、仮想。なあ、遊び、何するか?」
「生き物ごっこ」
ぼくの言葉にコシは納得した顔をした。
「そうか。なるほど。わかったぞ、おまえ、生き物じゃないな」
「ご名答」
「ふうん。であるならば、おまえの友人、かわいそうだな。さっきコーリングしてきた彼。ぷぷ」
「まあね。でも、根はいいやつだよ。ちょっと痛い感じで見られるだけ。お金とくじ運あるからたぶん大丈夫だ」
「なるほどな。そうしたら毎日ハッピーハロウィンだな」
「そうだね、毎日がハッピーハロウィンだよ」

それから夜にかけてぼくとコシは冷蔵庫に眠っていたありったけの食材を放り込んで鍋を作った。この家の本来の住人が新たに買い足さなくなってからずっと、何年も何年も眠っていた食材を盛大に放り込んで。

おいしいなあ。
おいしいねえ。

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