no.390

格好つけたくない。格好つけないで。約束をやり取りしなくても愛するくらい簡単だったはず。ひけらかさないで。嘘を準備しないで。ぼくには見え透いている。きみにだってそうだろう。結晶の複雑さに胸を打たれたふりしてもっと浅いところを探りたがってる。問いかけたらあっさり白状できる部分を。相討ちになって死ぬこともたまにはいい。燃え尽きない命のままずるずるやっていくくらいなら。マグカップのミルクを飲み干して初めて底に沈殿する物質の正体とその量を知る。騙されるくらい、なんだ。無邪気にかき混ぜればよかった。ぼくときみは誰もが羨む関係だった。欠点としてはただどちらも臆病過ぎた。そしてそれを知られまいとして張り合い過ぎた。先にボロを出した方が楽だって分かっていたのに。割れた瓶は戻らないね。琥珀の粘着質がどんな模様を描くか、項垂れて観察をしている。音楽が流れる部屋。季節の回転を待つ。利き手の反対でネジをいじりながら。やり直したいな。やり直せるかな。今度は先に口を開いた方が有利だ。きみの視線がぼくの前髪をかき分ける。沈黙はいつも無力だった。