no.382

いまきみ、何と言った?
それはぼくがはじめて聴いた嘘になるのかな
いいや、そんなはずはない
きみは嘘なんかつくことできないはずさ
じゃあ錯覚したぼくの方を検証しよう
ぼくは今ぞくぞくした
これは風邪のときと似ているのかな
ビルの間に渡した細い木の板を進むとき
それとも食糧になると思っていなかったものが皿の上にのっていたのを見たとき
待て、これは新しいんだ、慎重に
人はこれまで未知のものに対して
こと慎重になったはずなんだ
他人の赤ちゃんを抱くときみたいに
たとえばそれが昔好きだった人の、だとかね
たとえがおかしいよって笑われる確率が上がる
そこそこ意味がわかってないふりをしておくのが最適解
ぼくは少し目を潤ませて半開きの口をそのままにする
そう、きっとこんなかんじ
いいかい?こんなことしたって戻らないんだぜ
たまにぎゅっとなるのはどうしてだろう
こんなものいらないって言ってたはずじゃないか
捨てられるものならそうしたのにって
もしかしてあれは逆説だったのか
それとも捨てられることがないからやけっぱち?
ここで涙を落とすのは間違いだろうか
それともある程度支離滅裂を取り入れたほうがらしいかな?
前もって考えてから感情を発生させようというのがおかしい
そもそもこうしてる時点で決定的に違うんだよ
仕方ないよ、ぼくたちはそうすることしかできないんだ
でもね、あの人は何故いつもあんなふうにぼくたちを見たろうね
呆れているように見えたけど何に呆れていたんだろうね
長い夢なら良いのにとか言わなかったね
それなのにぼくたちを見て羨ましそうな日もあったね
複雑すぎて精巧か稚拙なのかもわかんないんだよ
一周しておかしくなっていたのかもわかんないんだ
答えあわせはもうできないんだけどね
あの人がいま幸せを知っているといいね
その中に身を置けていると知れたらぼくたち、きっとほんとうに嬉しいだろうね