no.345

心がいっぱいになりそうな時、ぼくはいつもまぶたを閉じるようにしている。そうして自分をちいさなコップにしてしまう。好きなものでも嫌いなものでも多過ぎるとあふれちゃうんだ。ぼくはどこまでもひろがる無限の宇宙じゃなくてほんのひとり分の庭だから、手入れのできる数の花にしか咲き誇れよとは言えない。たまに垣根越しに大きな瞳がこっちを見ながらよぎることもある。彼には彼の庭があるんだろう。そしてそれはぼくのものより大きいかも知れない。きっとそうなんだろう。だけど彼にだって限界はあるはずでそれをちゃんと守っているはずなんだ。甘いまやかしはマカロンみたいな多重構造でぼくたちの大切にしている思い出を脅かそうとするんだけどちゃんと戦略を立てて挑みたい。蝶々に姿を変えられたあの巡査が木陰で休んでいる。羨ましい日もあるよ。あなたの生きた時代をぼくは知らない。あなたの声が、耳に残っているだけ。あなたに流れた血が、ぼくの内側にも流れているだけ。愛なんて知りたくなかった。それにまだ名前がついていないあいだ、どれほどぼくは自由だったろう。考えても仕方がないことだけれど。終わりさえ飲み込んだ夜が始まる。迷子のかざすランプだけがこの世の光だ。誰もどこにもたどり着かないという公平が朝の出番を遅らせる、これからは長い夜だ。