僕の大切な人が大胆な事件で窮地に陥った。夢を叶えた秘密基地を捨てて夢にまで見た逃避行だ。この街のビルは高くて細いから路地がたくさんできていて全部違うところへ繋がっている。満天を凌駕するネオンの破裂に食べ物の匂いとぬるい息遣い。視線でつくられたネットワークが家畜を囲って花は静かにほころぶ。僕たちはべつにここでなくても良かった。毎日眠りに落ちる前に口ずさむ歌の中にあるような、青い森の出口にある村でも。辺り一帯暗闇で肌に文字を書いて感情を伝え合う世界でも。限りあるものを平等に分けようとして僕たちはしばしば失敗をした。それなのに燃えない本がいつまでも生臭い理想を掲げるから成長しないったらなかった。こんな時間、壊したって何になるの。こんな命、守ったくらいで何になるの。伸び切った前髪が風に吹かれて瞳の色が見えないまま、僕たちは通じているかも分からない言葉を飽かずに投げ合った。迷いたくなくて握りしめた手が、いつか鬱陶しいものになる日まで。僕は、僕だけは、大切な人をちゃんと最後まで食べてあげたい。