no.337

ブランケットの波間で目を覚ます。感覚がひとつずつ目を覚ます。オセロのように消えていく思い出のようなもの。透き通った色。音のような色。ぼくはずっと昔、こうすることを許されていなかった。たとえばの話。仮定。今を幻だとする作業。ぼくはずっとあとになって知るんだろう。何も不足はない。何も悲しんでなどいない。きみには分かってほしかったけど。もう何もいらないと気付いたんだ。きみの理解でさえ。どうしてそんなに強いのと問いかけられる。たぶん逆だよとぼくは答える。自信なさげに、あるいは、淡々として。だって逆なんだよ。ゼロからマイナスになる恐怖に負けたんだ。ぼくはね、きみの思っているよりずっと確実にからっぽなんだよ。「へえ、そうかな?」。二つの眼球が液晶画面にくぎ付けになっている。でもよく見るとその瞳孔は微かに変化を続けている。セラミック越しに重なる世界。閉ざされた離島での実験。手のひらに丸まっているサテンのリボン。破裂した青が空を染めていく。ねえ、なんだった。ぼくたちの住んでいた番地。学校の名前。足を引きずっている男。何を選び取って何を捨てたんだっけ。今は実験のさなか。割られた鶏卵からぼくのずっと捜していたものが転がり出てきた。悲鳴ひとつ響かない。こんなこと、再生するまでもない、一度見た映画のように知っていた結末だよ。勝手な妄想だって一言で片づけてしまえばいいんだ。