きみの存在が数値化される。ぼくの仕込んだたくさんのひみつが目に見えるようになる。味気ないけどそれで救われる人がいるのなら遮らないでおこう。予測変換が世界をつくっていく。この病院の中庭には四季がない。あらゆる季節の草花が咲くから。それはここから出られない人を思って手向けられた花束から繁殖したもの。きみの命だからきみのものだよ。そう言えば良かったのか。言語になれない溜息が漏れていった。でもそれを誰も望んでいないとしたら。隙間のないよう手を揃えても水が漏れていくんだとしたらそれはもうぼくたちが透明なのかもしれない。満たされないと不平をひとつこぼすごとに色が死んでいったんだ。抱きしめるにはちょうどいいといいわけをしながら。おたがいの濃度が下がった頃に再会を果たして、おそるおそる指先を伸ばした。百年ぶりの肌は始めは測定できず、後から浸透してきた。口をひらかなくても、目を閉じていても、きみが何を言いたいかが分かる。見てきたもの、食べてきたもの、会ってきたひと、ひとりのときに考えていたこと、とめどなく注ぎ込まれてくる。体の中に居場所のなくなった涙が、押し出されるようにこぼれてきた。ひとつ落っこちればふたつめはわけなかった。ぼくは目を開けた。視界は潤んでぼやけていた。そのまま球体になった。次に瞬きをしたらもう人間だ。誰かの声がする。忘れたくない、でももう一度思い出してみたい。それはぼくがつくったの。それはぼくが育てたの。知りたくない、でも分かってしまう。それはぼくに愛想尽きて、もう大丈夫だよと突き放す。いつか夢に見た花盛りの棺。