No.787

ぼくに好きだよと告げるくらい、きみって孤独なんだろうか。きっとそうなんだろう。ぼくしか伝える相手のいないくらい。毎朝おなじベッドで眠りに落ちておなじ朝に目を覚ます。ぼくは申し訳ないのではじっこで眠る。きみは笑って近寄ってくる。ぼくはますますはじっこへ行こうとして床に落ちる。何回も。そのうち階下から苦情がとどくだろう。軒下にちいさなつららがぶら下がる季節、それで誰かを傷つける妄想をしていたばかりの頃を思い出す。活字しかぼくの話を聞かず、ぼくも、活字にしか話しかけなかった。ずっとそうだと思っていた。きみは春のように現れた。当然だという顔をして。花が咲いたから来ましたけど。そんな顔をして。ぼくはきみに光のようなものを見たけどきみは、ぼくにそれを見たんだと言う。お互いの中に光を見つけてしまうのは、ぼくたちがどちらもまだ夜の中にいるからだね。好きだよ。きみがぼくに言うときそれは、謝罪に聞こえるんだ。誰に謝るの。何を。どうして。許されているのに。目をつむって歌声だけを流し込む。思い描いた季節がめぐるころ、ぼくはまだきみの教えてくれた魔法を覚えている。きみの歌ってくれた旋律を覚えておく。