小説『ミライエンスストア』

どこへ行ったら手に入るか分からなくて、コンビニで愛を探した。いつか聴いた昔の音楽で誰かが歌ってたんだ。ここにはなんでもそろってるって。

地球最後のコンビニ店員はぼくを見て言った。うわあ、久しぶりだな、人間が買いに来るなんて。たしかにぼくはここに来るまで誰ともすれ違わなかったし、今も店内にはぼくしか客がいない。他はすべて買い物ロボで、かごを抱える頑丈なアームと頭脳に清算機能を備えただけの形だ。

ずっと昔はコンビニ店員とお客が会話することもあったらしいよ。今日もよく晴れてますね、とか。二日酔いですか。とか。
そうなの。なんのために会話を?
分からない。だって昔の人のことだから。
でもぼくらも今まさに会話してるね、こんな感じなのかな。
たしかに。

店員はぼくを見てニコリと笑った。

きみは何を探しに?答えようと口を開いたぼくは忘れてしまった。何を買おうとしていたのか。何を求めていたのか。そもそも本当に求めていたのか。本当なら忘れたりしないんじゃないか。

「手に入ったんじゃないかな」。
俯いていた顔を上げる。
「忘れたのは、手に入ったからじゃないかな。覚えておく必要が、なくなったからじゃないかな」。
そうかも。
たしかに、そんな気がする。
うんうん頷いて見せると店員は安心したようだった。

「今日が最後の出勤日なんだ。きみは最後のお客さんだから、泣いて欲しくなかったよ」。
「知らなかった。泣きそうになってしまってごめんね」。
「いいんだ。きみの名前はなに?」。
「なぜ?」。
「昔の人はこうして直接訊ねたらしいよ。気になる子ができたら。今じゃ信じられないことだけどね、彼らの気持ちが少し分かった気がする」。

へんなの。
分からないながらも嫌な気はしなかったので、ぼくは名前を伝える。きみはぼくの名前を繰り返して、よい一日をと言ってくれた。

よい一日はもう、果たされたよ。

そう。お礼がしたいな。少し散歩をしよう。プログラムを書き換えて。バグのふりをして繰り返しを離脱するんだ。宇宙でもたまにあるらしい。軌道をそれてしまう衛星が。
そう。
そうだよ。
物知りだね。
今はなんの役にも立たない知識さ。