No.771

ここから先へは行きたくない。黒い霧が流れている。ぼくを見つめる瞳の気配、手も足も出せなくなる感覚。きみが手を握ったり離したりするせいで、本当のお別れなんだと分かってしまう。気づくのはぼくが先でも、準備するのはきみが早かったね。いつも。いまも。太陽があるのに降り注ぐ雨を、奇跡のように見ていた。初めてきみを見た時きっと、同じ顔をしたんだろうな。顔を上げる。誰が教えずとも、空に描かれる虹に気づけるように。きみの決断を待たずにぼくは手を離す。黒い霧が晴れたら新しいきみを見つけられる。予感だけで一歩を踏み出す。運命に出会うために糸を切った。さよならを言わなかった気がして振り返ると、陽だまりしかそこにはもう残っていなかった。