No.769

忘れていいよなんて言わない
思ってもないことを伝えたりしない
覚えておいて、覚えておいて
忘れようとしてもいいけど(無理だから)

体育館の扉が半分ひらいていて
後輩たちが駆け足で横切ったあと
輝く菜の花より鮮烈だった
非常ベルが鳴って合唱が悲鳴になった

飼い慣らされた野性が日常の
中で死んでしまおうとしていた
僕はすがったりひれ伏したりした
ここにいて、また元に戻すから

覚えておいて、覚えておいて
出会う前だと思っていた頃を
もうすでに出会っていた頃のことを
あなたの視界に入ることだけ考えていた
人差し指が非常ベルを押すのを見ていた

菜の花が燃えているのを
水族館の水槽みたく磨かれた空を
その瞳に刻まれる一瞬を
無実のあなたと逃避行とかしたかったな
だけど何にも言えなかった臆病者を忘れないで