No.717

ひどい喧嘩をした後に、プラスチックに押し込んでいた海が溶け出してくる。無視していたらかかとまで上昇して、それでもなにもしないでいたら腰まで浸かってしまった。きみに連絡を取ろうと思うんだ、でも手段が遠いところにある。傷口に海水が染み込んできたけどぜんぜん痛くはない。もう海水ではないからか?傷の半分は自分でつけた。傷ってたいていそんなもの。半分は自分でつける。あの子もこの子もぼくだって。ほどよく拡げたら持って行って見せるんだ。ほら、きみのせいだよ、こんなに。ちゃんと受け止めてよね。優しい心を痛めたい。やり方がまずくても。ぼくは子どもだ。ぬいぐるみを捨てられないでいる。白い舟を浮かべた丸い海のことも。海底で名前をひろった。ぼくのかな。きみのかな。ここではみんな探索者だ。だれのかな。あれはどこかな。これはどこかな。ぼくはだれのものだったかな。飽きるほどさまよったあと、淡く光がのびてくる。空き部屋に朝がくる。海ひとつ捕まえておけないで、からっぽの朝がくる。流れるタイムライン、訃報と笑顔が隣り合って整列してる。あちらが夢、これも夢、ぼくの傷は晒されて消えてった。海を分けてください。ぼくも差し出します。光をあげます。もう一度海を売ってください。きみにつながる、つなげる、ちゃんと目覚めたぼくにあの海をもう一度。