No.707

水の底から見上げてる
盗んだ折り紙が光るのを
かわいいねと言えなかった
それが欲しいと言えなかった

回想の順序は決まってる
たどりつく結末もわかってる
また水の底から見上げるんだ
手にできなかった光を見るんだ

帰り道がわからない
そんな嘘をついて道をそれた
視線の先であなたが立って
待っていたよとこちらへ告げる

星のにおいがしていた
迷子のあいだずっとだよ
ぼくの言葉すべてが
ほんとうではないけれど

ぼくの言葉すべてが
うそだというわけでもないんだ
嘘をつく人には守りたいものがある
失いたくないものが

黄色い花が咲いていたと思うんです
曲がり角のごみ捨て場に
それをあまり愛さないようにしよう
ぼくが触れたら花は枯れるので

自由の効かない手袋に
問題ばかりの手を詰め込んだ
もう来ないで
誰ももう近づかないでと

百年後の昼下がり
寝ているぼくのところへあなたがやって来て
なんなく手袋を取り去ってしまう
魔法なんて解けてただろうと笑いながら