no.121

新しく生まれ変わるときに脱いだ殻に夏が溜まる。余計なことを言わずただ微笑む金曜日の雑踏。甘い蜜のありか。もう二度と出会うことも話すこともないひとと、行き違ってすれ違う。誰かにとって正しいことが僕にとってそうではないことを、誰も教えてくれなかったけどきみだけは囁いてくれた。なまぬるい風の中で突然に泣き出すときのえもいわれぬ快感。砂糖漬けの花びらが舌から溢れて踏みにじられていく。次々に生まれて次々に狂っていけ。いつか何も欲しくなくなる時がくるから、摩天楼に向かって許してって乞え。死なせないでほしい殺してほしい。いくつもの目と目が同じことを訴える。一括りにされないよう馬鹿をする。ひとまとめにされるやるせなさで発光する。失っていくものの数だけがふたりの寿命。きみをこの世に産んだ人が僕のいちばん好きな人だよ。覚えておいて、けして忘れはしないで。