no.111

雨雲の中に橙色の升目
ひととひとの暮らし
僕は目を凝らす
一人称の変換にもそろそろ飽きてきた

積み重ねた一秒一秒
僕はいつも笑っていた
今そのどれも手に入らないと知っている
歩く人影がこちらに気づいた気がした

体温は邪魔でしかなかった
浴槽に水をためる意味がわからなかった
いつも自分が間違っている気がしていた
誰かと比べてではなくここにいることが

一本の木を森にたとえ
点滅する電波塔にメッセージを読み取ろうとする
僕が世界にしてきたことを
世界が僕にしているだけだというのに

あたたかい食卓とぞんざいなやりとり
そのどれにも羨望を覚えなかったことはない
僕は本当にいつもそれを欲しがったけど
口は歪に引き攣って一度も言葉にならなかった

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