No.666

新芽を持った茎が水を吸い上げる
世間が平和でなくても関係なく
同様にぼくがあの夜出歩いたことは
その後の世間になんら影響しなかった

空を、おおきな尾鰭が震わせていた
その波紋で星座は組み替えられ
きらめいた音が家々の屋根に降っていた
古い毛布にくるまり耳をすますきみにも

誰も言わないからぼくが言うよ
なにも選ばないことも、
ひとつを選ぶように勇気がいった
誰かを愛するってどんな気持ちだろう

愛はきっととても良いことだろう
ぼくだけじゃなく誰だって思うさ
一瞬泣き出すのかと思った
花が咲いたような笑顔を向けられたら

ひるがえるレースのカーテン
木の床に落っこちた天使の輪っか
陰が影に溶けていく
火が陽の中へ溶けていく

どんな気持ちだろう
誰かを愛するって
どんな気持ちだろう
誰かを幸せにするのって

期待でもなく呪いでもない
ただ答えを待つだけの無垢な質問
まっすぐに見ることができない
それをぼくに訊ねる、なんて悪党だ

二人を匿名にする夜と尾鰭がとおざかる
震えているぼくたちの心臓だけ残して
今日のこと思い出すこともないくせに
ぼくにだけ名乗らせる、きみはひどい生き物だ

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