No.651

おまえと暮らしていると、自分が自分じゃなくなる感じがする。もっと言うと、自分がこの世からいなくなったあとの世界を見ている気がする。こんなに確かなのに。今ほど確かな日々はなかったのに。予行練習をしているみたいだ。単純な聞き間違いに、いつか来る別れを見た。おまえはやがてぼくに捨てられるだろう。だから優しくする必要はないのに。こんなにすべてを捧げる必要はないのに。「だいじょうぶ」「だいじにします」「だいすきです」。おまえの言葉は「だい」から始まることが多い。(だいきらいだ)。ぼくは大抵おまえのようになれないので、せめてショートケーキのいちごを嫌いなふりをする。「え?ほんとに?もったいないなあ。おいしいのに。ほんとにほんと?じゃあ、食べちゃいますね」。おまえがそれを好きなので、ぼくはそれを嫌いなふりをする。