【小説】二律背反ジャーニー

ああ、
あれが別世界への入り口なら。
どこかで、
また何かになれるのなら。

そう見上げた冬の月
気を取られて殺される
一瞬の衝撃だけで
僕は天使になった

たぶんイメージとは違う
役割があってだな
語弊があるけど現実的
神様はハラスメントばかりで

ノルマです
あなたで達成するんです
連れて行かなくちゃなんです
生きている人をこちらへ

冷たい雨の後
いまだ晴れない表情で
男がてとてと歩いている
あてどなくあてどなく

最後の一人なので打ち明けた
僕はここで死にました
恨んでないです
痛くなかったです

むしろ感謝してるくらいです
ストーリーができました
誰かをひどく
悲しませたかも知れないですけど

去り方が分からなかったです
なるべく深く傷つけず
自分の意思と悟られず
どう脱出したら良いんだろうかと

セレンディピティ
あの瞬間僕は幸運でした
なぜってみんなが
選ばれるわけじゃないですから

男は僕の話を最後まで聞いて
少し哀れんだらしかった
その目は優しく細められ
何かを託すよう僕ばかり見下ろしていた

冬に浮かぶ月の光
どこまで届くか知っている?
見たい人がいるところまで
つまりどこまでもどこまででも

結局僕は天使から足を洗う
続けていくにあまりに不良で
ちなみに男は死神だった
営業成績は下の下つまり使えないヤツ

天使の手法はあざといな
殺すと言って生かすなんて
残された時間をもったいないと思わせて
男はクノールカップスープを見下ろして言う

よくそうのんきに関心してられますね
てか何回も言いますが洗脳ではないです
思い出させてあげているだけです
僕は湯気を目で追って返事する

打率は?
五割五分。
そこから導き出せることは?
天使も死神も無意味ってこと。

片隅をさがさない
嫌われながら生きていく
許されないまま命を食べて
融け合っていく世界の真ん中

裏切りの後で優しくされて
突きつけられた脆さと生活をする
僕を殺したあなた
あなたに殺された僕とでここで