名前のない集団を抜け出した。誰にも告げずに。境界線をまたぐと、あの日割れたコップ色の空。忘れていた。だれのせいでもなく、ある日それが割れてしまったこと。忘れていた。それを持っていたことさえも。そのくせ手にした時のことはよく覚えてる。案外そんなものなんだろう。かざした手に色が染み込んでいく。それを誰も見上げない幸福。そこかしこに見ず知らず、神様の影を見る。ぼくは誤解しているんだと知る。まだ認めたがらない自分も。遠回りは何よりの楽しみ。記憶は繰り返し再生されるたびに書き換えられて今じゃほとんど、そもそも起こらなかったことに等しい。うわべだけでも繕えないところはどうしたって変えられなかった。それも知っていた。魔物は必ずあらわれる。一日一回。耳たぶを撫でる風の中から囁く。か細い直線から滴った血の中から。ひとかけらカッターで切り取って新しい夜を連れてくるよ。ぼくが向き合うきみのなかに。朝しか知らない、かわいそうなきみ。