No.563

奇跡ってたくさん集めたら薄くなる気がしてた。だから奇跡だってあまり思わないようにしようって。約束はしなかったけどそういうふうに決めたんだ。何かひとつ決めておけば忘れた時にも思い出せるかなって。最初から奇跡だった。終わりのことは知らないけど、最後までずっと奇跡なんだろう。白い箱に詰め込まれて出荷を待つだけのショートケーキだった。きみがそこから連れ出した。いちごなんて要らないんだ。何も変わっていないのに何もかもが新しかった。きみは子どもを産めないと言うけどあたらしいものはいつもきみから生まれていたよ。脱線、それだけを願っていた制服の頃。車窓の外に海が見える。きみがいるだけで毎日こんなにたくさんの色が見える。見ようと思う。そして受け入れようと思える。世界はぼくを傷つけないと、傷つけられてもまた立ち上がれると、また歩き出せると、誰より自分がわかるから。いつかこの風景に溶けたら、何もかもを睨んでいたかつてのぼくのような目をした子どもに教えたい。奇跡は平気。使い切ることはない。絶望がある限り、何がいちばん幸せかをきみはほんとにわかっている。

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