新しく無邪気な朝陽が
あなたの睫毛に影を作るより早く
この手紙をぼくは書いています
約束どおり左手で
キッチンに豆のスープと
パンケーキがあるので食べてください
今日だけは好きなだけシロップをかけて
焦ってはいけませんよ、少しずつです
いつかあなたに言いましたね
建物の外は灰色で
毒と鉄骨だけ残る汚染された世界だと
いつから嘘に気づきましたか?
自分以外がみんな器用で優秀に
思えたんです、どこか真実で
ぼくは存在していい
類の生き物でなかったんです
それだけのこと
最初は食べるつもりでいたんです
あなたは弱くて簡単そうだ
非力で知恵のないぼくにも
仕留めることができるだろう
できただろう
だけどぼくはしなかった
あなたが笑いかけたので
ぼくの素性や才能と無関係に
それで今まで暮らしたんです
絵本で文字を覚えましたね
角度を固定した望遠鏡からたまに見える
夜空の星で、わかる、あなたは賢い
ぼくの嘘に耐えられない
そんな時がいつか来るだろう
来なかったとしても
いつも予感に怯えるだろう
その目に写したくなかったんだ
ぼくはあまり美しくないので
計画は一年ほど前に立てました
あなたがここにある本をすべて暗唱できた頃
いいですか、外の世界は美しいです
ぼくが目を背けるほどに
あなたにはきっとふさわしい
ここで過ごした日々も忘れられる
これを謝罪文だと思わないでください
手紙で謝罪されるようなことが
あなたの身に起こったんだと
ゆめゆめ思わないよう用心をして
あなたが随分と賢くなってから
唐突にこの世界へ放り出すことが
馴染めなかったぼくからのプレゼントです
ひとつくらい良いことをしたいです
最後にひとつ
この部屋には色がありませんでした
あなたがここを出たら最初に
色の洪水に侵されるでしょう
怖く感じるかも知れません
しかしすぐに涙が出てきます
こんなに美しい景色があったのだ
もしあなたがそう涙を流すのならば
それだけでぼくが閉じ込めて
嘘をつき続けた挙句に
放り出した意味も分かるでしょう
しばらく涙は乾かないでしょう
読み終えた手紙は食べてください
証拠は少ないほうがいい
あなたは被害者でぼくは加害者だ
よくある話を人間は大好きだから