No.498

いまね、近づいた気がした。あなた否定するけどね。いや、気づいてないんだ。ぼくたちのあいだにゃ硝子があって、今も昔も遮られてる。どうせなら色付き硝子がよかったね。磨り硝子でもましだったろうな。そんなに透明な涙を知らない。勘違いしないで、ぼくたち、たとえこの硝子がなくたって別々の生き物なんだからね。溶け合うことや混じり合うことはできないんだからね。そう思うと、まだ少し呼吸できそう。一度に。べつの生き物になってしまうの、無理かなあ?きっと無理だなあ。何世代も何世代もかけて進化していくんだから。どうしても、無理かなあ。うん、どうしても、無理だよ。明白に無理だよ。それに、ぼく、嫌いじゃないよ。この、どうしようもなさ。みんながなに言ってもね。ぼくたちが失敗なわけないじゃない。ぼくたちを生んだ存在が失敗するわけないんだから。平気だと思ったんだよ。そのひと、きっとこれが一番だと思ったんだよ。あなたの目の色がわかる。歌は届かなくても、あなたが撫でる軌跡で文字が読める。ぼくらそうして溶け合ってこうね。笑われながら、呆れられながら、飽きるほど重ねようね。硝子があってよかったっていつか言おうね。生まれ変わる必要ありませんって伝えられるよう、不具合だらけの今を大切に生き抜こうね。