no.431

潮が引くのにさらわれないぼくを意識していた。太陽がのぼっては月に追いやられ、夜の上に朝が何度も降り積もっていた。

雪を初めてみたあの人みたいに一日の終わりと始まりを見続けたって飽きることはなかった。拳銃、それは、友達ですか?

複雑めいたアルゴリズム。本当はとってもかんたんなこと。願いを打ち破られないよう魔法をかけてあるんだ。それは柔らかく頼りがないから。

壊れてくれたら楽だったね。愛をさせてよ、愛をしていてよ。守りたいって、いつも口にする。

かわいそうだよ。言ってくれるきみがいないから、こいつを鳥かごに入れておく必要もなくなった。飛んでいけ、味気ない自由に見放されまでは。誰にもかえりみられないふたりを彩るために。

沖。はぜる。蟹。どろ。飛行機。そら。山。うみ。

ぼくは書く。

草。はな。すみれ。砂糖。充血。思い出せるもの。新しいもの。病みついたように。

文字はさらわれて深海でくらげにでも生まれ変わるだらろう。いま、いま、きみが思い出になっていく。遠く離れるよりもはるかに、ぼくごときにどうしようもなく。光なんか要らない。ここはじゅうぶんもう明るい。

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