no.430

この手を離すこと
きみが逃げ切るためには
ぼくを救った透明のビニール傘に
色がついて前が見えなくなっちゃう前に

大切なものを大切にしすぎて
壊してしまうなんておかしいよ
わかっていたのに壊れたんだ
それは、壊れてしまった

時間は止まらなかった
世界はおろか
ぼくひとりの時間さえも
絶望にそんな力はなかった

活字を切り抜いていた
さかさまの影で生きられるよう
手首は良くないよと言った人が
澄み切った目の色をしていたから

いじわるな手紙の届かなかったことを
今なら良かったって言える
こういうことの繰り返しなんだろう
壁に向かった答えあわせばかりだ

当事者でないから苦しくない
明日どうやって目を覚ますんだろう
景色は少し変わっているかな
手を離したら嘘が鮮やかになってしまうね

(きみの食べる朝ごはんが
美味しいものでありますように。)