no.419

ようやく訪れた季節の終わり。つぎのあたらしいを期待しないですむ朝、ぼくは少し呆けていた。時のない花は盛んに小鳥を誘惑し太陽は正しく傾いている。肉片になったかわいいものがぼくの周囲に虫をおびき寄せる。美しいひとは言った。逃げるのよ、汚れる前に、それだけ、それだけのことよ。へえ、だからそれっきりなんだ。とは、言わない。ぼくにある、ひとをおもいやるこころ、のせいで。言わせない。やや乱暴にちぎった手紙が光とも雪ともわからなくなる。曖昧は暴力であり優しさだった。ぼくたちから命名を奪うから。正しさを知るほどに一つずつ消えていった。消えていくもののことはいちいち覚えていられないから伝えられないんだけど。消えていった、その感覚だけちゃんと残る。皮肉なことだ。ぼくはそれを嫌っていたのかも知れないのだから。黒い瞳に何をうつしたって自由。いいわけを咎められない方程式。三角形のようにどこまでも重なって伸びて行く。それは三角形のように。透明な朝だよ、目覚めないきみがどれだけ血を流したとしても。避けられない夜を迎え入れるための、無邪気に透明な朝だよ。