no.349

でも好きだよって言えなくて分裂する音楽を好きでもないイヤフォンで聴いていた。心にあるものは本当はもらいものばかりで、だけどもとから自分のもんって言い張ることもきた。だって誰も気にしていないよ、そんなこと。もみくちゃにされて死にたいって思いつかなければ天才を脱落して、そうなったら夢でしか会えない。悪い魔法にばっかかんたんにひっかかって十七を狂ったように繰り返していたきみの。テープはいつも明ける前で途切れる。だからその群青は明けることがないと同時に褪せることがない。朽ちるほうが幸せだって言えるのは成功者の戯言だよ。余裕だよね。もうそこへの梯子ははずしてしまったんでしょう。うまく生きられないのに肺が呼吸するし心臓はけなげに動き続けるんだよ。忠実な臓器を裏切ることは嫌だ、嫌だ、ほんとうはとても嫌だ。それにだけは騙されてこなかったから。平気なふりが続けられなくなりそうになると左手首のかさぶたが猫の声で鳴く。にゃあん。きみはぼくの話を聞いても気のせいだよって言わない。そのことだけであと一晩はここを逃げ出さない決意ができるんだよ。きみが理性の期待できない獣でもね。僕らの間に檻はないのに。きみが何も考えていない子どもでもね。ここには甘いお菓子なんてないのに。