no.348

ラストパスの輝きに憧れて、空気中の水分が凍る。ぼくの手から逃れた毛糸玉が、坂道を転がっていく。追いかけもせず好きにさせておけば運命のひとを教えてくれるだろう。ままならないハプニングだっていいものだ。なぜってそもそも支配なんてできていないから。自分で考えたように感じているだけで、お天道様はすべてお見通しだって言うんだろう。それならそれでいい。もしそうならそれもいい。机からはみ出したシャーペンの芯、スケッチブックから飛び出した曲線、フライパンから出発した双子の目玉焼き、鳥かごを脱出した誰かの青い鳥。二度と見つからなくたってゲームが終わらなくたってぼくはひとりでも笑うことができる。神様みたいだとか天才だとか欲しいと思ったもの欲しいままにして、だからって飽きずに絶望もせずにいつまでも新鮮な気持ちでわくわく目を輝かせていられる。蛇口をしめるようにして世界中の流血を減らせるし銃身からマーブルチョコをあふれて止まらなくすることだってできる。きみが不可能だといえば言うほど、あなたが無理だと笑えば笑うほど、ぼくはそれを実現する能力に恵まれる。空中に霧散するマリア、まぶたの裏に百合ばかりの棺をつくってあげよう。法則を捕まえたら黒猫は何度でも息を吹き返すだろう、それをぼくが忘れない限り。愛に終わりはない、恋に偶然はない。ママレードの粘度で切り離されたおまえの朝と夜を今またくっつけてあげるからね。