no.329

青の封筒で送られてくる手紙の差出人についてずっと気づかないふりをしていたけれど答え合わせの機会がきてしまっんだ。ぼくは遠いむかしに、または、それほど遠くない未来、あなたに会っていた、または、会うことになっていた。
運命は信じないけど繰り返しはある。そしてそれを運命と呼ぶのならあなたはたしかにそうだった。色のない世界を憐れむのはいつだって色ある世界しか見えていない奴らのすることでぼくはいたって自由だった。あふれているものを欲しがる精神は身についていなかったし、でもそれはこの基盤では多少厄介な性質で、管理者には目印が必要だった。ぼくの利き手は夜になると光った。だから何食わぬ顔をするために手袋で覆っていたんだけどあなたはそれにも気づいていたね。
爛れた内側が修復するまで否応なしに話さなければいけなかった。青い便箋はいつも何か訴えていたのにぼくにはもったいなくて気づかないふりをしていた。だから感覚は鈍くなってそのうち本当に気づかなくなりそうだったんだ。
あなたといると南の島の浜辺を歩いている気分だったよ。急かされもせず、切なくもない。あなたはぼくに何も足さないし欠けていることを感じさせない。あなたはいつかぼくを殺すだろうが珍しいことじゃない。抵抗も感じていない。そうじゃなきゃ明日吹く風にだって死ぬんだから。
誰もが嫌な顔をして陰口を言うんだとしてもぼくには降る花が見えるし、それはやっぱりあの青をしていた。少なくともぼくは信じている。適切な言葉が見当たらないんだ。あなたは、いらないよそんなものって言う。違う、ぼくのためだ。ぼくの放った言葉であなたの名前が決まるんだ。
これは欲求の芽生えだね。
正直に言おう、誰にも渡したくない。あなたを、誰にも、渡したくない。
認めることはみすみす呪いにかかるということ。ぼくはそのとおりの思いに苛まれるだろう。だけど誰も信じないのならぼくが口にするほかないんだ。あなただって信じないのなら。
青い封筒は増え続け、ある日いっせいに空に散る。ぼくのつたない輝きがその一瞬に溶けてしまうよう、祈っている。