No.767

一枚の絵に、知る限りの青をのせた。

永い夢から醒めた青。
色彩から隔たった青。
夜と夜明けをつなぐ青。
境界線に生まれ出づる青。

ぼくはぼくの名前をつけるけど、きみはきみの呼びかたでいい。どの青がどんなふうに映るかは、きみの瞳によるところだから。それぞれの瞳が感じることだから。

過ぎ去った時間を取り戻せないと分かるのは、同じぶんの時間で形を成した人に出会ったとき。彼らは前触れもなく現れて言った。
「なにも特別なことではないよ」。
賞賛したい、諦めたくない、何も無くてただ自由でいたことを、認めたくない。ほとんどの当たり前が、ぼくにはできない。

誰かを愛すること、自分の弱さを受け入れること。どちらが欠けても後悔が生じる。どちらを満たしてもまたべつの後悔が生じる。

見下した世界がたちまち無数の青に染まってく。ぼくが描き出す青など飲み込まれてしまう。唯一無二なんて幻だ。幻だと知るところから、また始まっていくんだ。

風が吹いてキャンバスの埃をさらっていく。
きみが笑った。
ひるがえった屋上のシーツの裏側で。
いつかのぼくがそうしたように。