No.546

失うため生きた
失うことがしたくて
失えるものを手に入れ
約束どおりに失った

朝の海が橙だった頃に
熱中した自傷に似ていた
ぼくたちは持っていない
だから拾いに歩いた

液晶画面から流れ出す
流れ込むそれを
毒だとわかって
受け入れるんだ

解毒作用を確かめたくて
死の淵に立ちたくて
大丈夫か知りたくて
誰かを安堵させたくて

とっくに壊れているよ
やさしい声がささやく
その声を聞きたくて
何度も馬鹿をやっている

発狂の過程だよ
いやに長引くグラデーションだ
振り返れば平気かな
きみはいつから平気になった?

信じたものが形を変える
信じるほうが狂ってるんだよ
それは覆せない事実だ
夜が来るたびに最後を思う

可愛く思えないんだ
傷つかない生命なんて
ぼくがいなくても
生きられるかたまりなんて

(だって、そうだろ?)

口々に呪いをかける
古めかしい儀式は新しい
手のひらだけで割った卵から
青い鉱石が転がり出てくる

ピンを止めるんだ
どこかで時間を
変わらないことを恐れないように
もう誰もしなくなった恋とかを始める