No.705

かたかな
ひらがなで書かれたその文字を見て
初恋の人を思い出した
忘れていたことに気がついた

とおくを意味するんだ
ぼくがずっと遠くにいけるように
親の願いがこめられているんだ
朗読でもしているみたいにそう教えてくれた

あんまり自信がない、
甘夏のゼリーを崩しながら
きみはそう言った
あなたを好きでいられる自信がない

その不安だけで充分だよ
教えても良かったけど
楽しいのでそのままにした
神さまもきっとそうだった

帰り道のハルジオンを撫で歩き
抜歯跡を恐る恐る舌先でたどる
けもの道を探すぼくは子どもで
舌は味わうだけの器官と思ってた

街は取り壊され再建する
記憶は物に付随し消えていく
ぼくたちが思い出と呼んだあの夏も
これから始まる今年の夏もだ

百年後に手をつなごう
ほかに約束はいらない
太陽系に夢中だった地球のぼくたち
醒めない夢なら夢じゃないから