no.366

すべてを壊してすべてに繋がっていく。
確認作業、もう十分に大丈夫だ。
すぐ手に入るものを取らなかったのは、
眺めているのが好きだったからだよ。
ラップを巻いた指がしゃぼん玉みたいに光ってる。
成功することに怯えて幸せを否定した。
ぼくが笑顔でいれば誰かが置き去りにされるって妄想。
生贄になることはぼくにとっても大切だったんだ。
ぼくを傷つけるかもしれないもの、蝶になる。
時期を違えて雪になる。
すれ違う人に愛とかナイフの応酬とかあげたい。
限られたピースでもなんなく描いて見せるよ。
全員が数じゃないんだって証明されたくない。
かわいいものの吐く息が可視化される今日。
未来は誰のものでもなかった明日。
閉ざされたドアの前で君を待ってる。
もうどんな魔法をかけられたっていいよ。

2+

no.365

ぼくが全部たべてあげる
きみのたべられないもの
とげとげした陰口や
ちくちくした記憶もぜんぶ

本当はあかるい
ほんとうに明るい
きみが生まれた場所で
千の花が枯れたんだって

おとぎ話って好きだろう
誰だっておんなじ
悲しみはかくれないし
おおかみはいつも悪者だ

なりたいものがわかるね
希望なんてたやすく手に入るね
雨のようにふりそそいで
きみを天高く取り戻したい

5+

no.364

知られたくない
誰にも
教えるつもりもない
きみはかわいい

誤解されて
邪険にされて
いつもひとりで
報われなくて

ぼくの幸せを祈って
泣くことをやめないで
ぼくは勝手に幸せになる
がんじがらめの相思相愛

気持ちを迷路にしたのは誰
たくさんの石ころを忍ばせて
つまづいてみせる演者たち
安心安全のお遊戯会

拒まれたくない
そのわがままのために
ソフトクリームをなめるみたいに
味方のすべてをけずっていく

唯一にあこがれること
愚かしくて可笑しいね
手をつなぐだけなら誰でも良かった
唇に空がうつってる

3+

no.363

光が侵していく無名の庭
いつ切り出そうか考えている
ぼくは神さまじゃないと
きっとあなたは知っている

たがいたがいに持っていた
暗くて甘くてぬるい秘密
それはシロツメクサの指輪みたいに
簡単にほどけちゃう類いなんだ

ランナーみたいに脇目もふらず
好きなものを好きだと言えばいい
わかっているのに遠回り
傷つけたくないなんて言いながら

傷つきたくないのは自分だった
しょうもないことで
苦しくなるだけなのに
それもそうだって認められない

終わりを何度も経験して
始まりは何度も始まって
数も覚えていないんだ
忘れたくなかったはずなのに

言葉を取り上げて
優しいスプーンで
不可逆性の蜜月と怠惰
あなたを好きで仕方がないです

そのことに困惑しかないです
満月も利用できないで
病気にもなれないで
ただ健やかにあなたを想ってる

呆れられたい
見守られたい
泣きながら笑って見せながら
本当はいつでも裏切っていいよ

4+

no.362

ずっと離れていたね
会いたかったよ
それも嘘だというの
だったらそうなのかもね

ビットに分裂する感情
初恋の解体作業
いわくつきの近況報告
どんな明日を迎えようか

砂の粒が傷を教える
永遠は胸に宿った
だけどそのままいつか死ぬよね
かわいそうって言われることが好き

涙はあたたかくて
生き物ならちゃんと判別するよ
壊したくて仕方がなかった
春と呼ばれた場所から持ってきたんだ

3+

no.361

この火はまだちいさい
だけどいつか街を焼き尽くす
焼け跡から黒い遺体が見つける
それは身元不明のまま葬られる

闇から来て闇へ消える二人
薔薇の香る村で生まれた
教会に背を向けて
月だけが姿を照らしていた

なのに僕たちは知っていた
遠ざかりながら憧れていた
真反対を取りながら恋をしていた
過去にも未来にもない今の中で

誰かの涙を誘うような
そんな悲しいことじゃない
僕たちはただ温かさに近づいただけ
自分よりそうじゃないものに触れてみただけ

2+

no.360

これくらいしないと愛にならないんだろ、きみの場合。
抱き合うとひとりでいるみたいな錯覚に陥るね、悪くない。
心地よさは不安とつながっていて、吐く息の白さは昔の亡霊に似ていて。
系譜の一つとして埋もれていくことからなる匿名性、は必ずしもぼくたちを救わない。
どんな台詞よりもいま頭上にひろがっているグラデーションのほうが有益だったとしても顧みない。
みんなみんな卒業していったけど、どの名前を聞いても羨ましくならない。
まだ離れたくないのは凍えてしまうからじゃない。
抱きしめたものの正体を知りたくなかったんだ。
それはぼくかもしれないから、きみにとってはきみかもしれないから。
歳を取るくらいなんてことないさ、永遠が姿を変えただけのこと。
孵化しなかったさなぎに似た感触がする、生まれなかった手のひらの。
涙なんかこぼさなくていいよ、ぼくたちは最初からひとりだった。
照らさなくたっていいよ、きみの光があるからぼくは安心して眠ることができる。

世界は安心して幕を閉じる。

2+

no.359

漂流物をつかまえてあげられなくて
次を見送るぼくの失態を月だけは見ていた
新しい水曜日と真珠色した子猫だとか
優しいものばっか集めたつもりだったのに

頼みの記憶はいばらに包まれて引き出せない
女の子が憧れた十二月、何年経っても実現できない、不能

パイプオルガンが流れている地域で僕らは生まれた
条件を出せない状況とあてにしていない陽だまりの気配だけで

青空さえ見えればいいと思っていたおぼつかない時期
次に欲しくなるものが分かってもう手を伸ばさなくなった

あなたに追いつきたくなかった貝殻の浜辺
名前を刻むように人を傷つけていた

流れる血は何百年も前からの饒舌な沈黙
きみと呼んであなたと呼んだなれの果て

悲観する必要なんてどこにもなくても手がかりにすがりたい

誰にも分け与えることのできない僕の孤独が
今日も誰かを寝付かせる歌をうたいますように

まだ半分夢見心地だねって笑って
振り返らない葬列が救済になるように
百年先の朝陽だって先取って
この奈落に愛されないよう今を照らして

2+

no.358

世界は美しい
誰が何と言おうと
不安を知って欲しくて
きみからぼくを隠したんだ

指の隙間から
まるい瞳がのぞいていた
見極めようとして
言葉でしか伝わらないものを

奇跡に価値なんてない
あるのは少しの幸福感と慣れ
新しい明日のほうがよっぽど素敵
きみなら迷わずそっちを選ぶんだろう

口の中で転がしている木の実
煙と溶け合って青春は弾ける
ぼくたちは時間を忘れて踊った
意のままにならない手足で

あの頃描いた永遠
それとは比べものにならない
輝くものばかりいつまでも輝く
平等は汚れた生き物に愛想つかした

かきむしった首の後ろ
薄い爪痕がぼくに嘘を教える
きみが本当は喜んでいるって
だからかんたんに姿をあらわす

ごめんね
きみの涙はきれいだと信じたんだ
ぼくはそれを見てみたかった
自分勝手で本当にごめんね

消失を体験したかった
その光景をぼくも見てみたかった
投げつけられる言葉は数字のフォルム
いまふたりの足元から埋め尽くす

2+

no.357

まだだよ
綺麗なまま出会わせないで
結び目を急にほどいて
誰とも愛し合いたくないんだ

どうしても我慢できなかった
果実に例えられること
だけど擬態するには良いかもしれない
女の子になりたいわけじゃない

夕日に染まった川辺で願った
この景色が誰かの血を
透かしたものだったら
透かしたものだったなら、どんなに?

舌を残したまま口封じはずるい
あなたいつか消えるんだよ
まるで例外のような顔をしてかわいい
馬鹿みたいで本当に好きだな

ミルクに浸したバームクーヘン
不ぞろいに名前をあげよう
ぼくは救われたんだ
ぼくより弱いものに救われたんだ

魔物から逃げる
夜のマントにくるまれる
世界は他人ばかりで少し意地悪
ぼくはまだ誰とも終わりを迎えない

3+