No.576

時間をかけて死んでいく
笑ったり泣いたり
体調を崩したり
そして持ち直したりしてさ

まぶたの向こうにきらめく
目を開けている時より暖かい
止まった時間はぼくの
永遠にぼくだけのもの

いつか並んで見た映画
こっそりハサミで切り刻んだ
あのシーンがちらついている
繋ぎ止めようとする

得体の知れない
知ろうとしない
罪のあるもの
分かり合えなかった罰で

溶け合うのは簡単
なので肌がつくられた
ずっと昔の胎内で
葛藤のための輪郭が

そして生まれた
まろやかな薬品の匂い
脱脂綿の陰から見る空
赤でも青でもない、あれが本当の空。

1+

No.575

どうしよう、気づいてしまった
僕はもうあなたのことあまり、
好きじゃない。

この気持ちを誰に伝えたらいいんだろう
泣きたくなった夜があって、
今までだったら、
あなたが話を聞いて聞いてくれた。

だけど今度は無理だよな、
さすがにこれは言えないよな、
言っちゃいけない。だよな、

桜吹雪の中で見たあなたがあんまり綺麗だったから
恋に落ちたと錯覚していたのかもしれない
本当は恋が僕たちを落としただけ、
なんてことはないのかな

このまま交わることもない、それで平気
一人はひとりのまま生きていく
耐えられないで二人を落としたんだ

あなたのことを好きって、
言えなくなくなってしまった僕は別人みたいだ
これまでは落とされた自分のことを別人みたいだと思っていたのに

変わってしまった
目に映る水面も星空も
変わらないあなたばかりを残して
青春が終わっても世界は変わってばかりいる

あなたを忘れそうな僕は、
簡単に消されちゃいそう、今にも、
それだけが怖いな
手をつないでなんて言えないのにな
もう一度なんて、言えないのにな。

4+

No.574

赤い糸なんかじゃない
指先から伸びたのは
誰にも言えない秘密ばかり
ぼくたちを繋ぐ唯一

断ち切ることは出来ない
刃物の使い方を探すうち
余計に絡まったんだ
どちらかが意図してるのかも

そして目を覚ます
湯気が光を包んでいて
はちみつの匂いにくすぐられる
正解を掴み損ねて目を覚ます

きみとぼくはそれぞれの制服を着る
それぞれの帽子をかぶって
それぞれの武器を持つ
出口だけは同じ毎朝、さよならも言わない

刺し合うフォークも
したたる赤い血も
皿の上だけで起こる出来事
空っぽだけをこの部屋に残して

2+

No.573

深夜のバス停
冷たい手を握ってる
この命が終わる時
瞬間を逃さないでいられればな

生きるって何かと物騒だね
髪に残る光跡がぼやけていく
ただそれを見ている
知らない言語を判読するように

何本かやり過ごした
ふと時計を見そうになって
袖口を引っ張った
あなたの頬は赤くならない

他人が網のように二人を追い込む
しかし目をくぐって逃げ出せる
先のことなんか考えないで
百年後に後悔するのかも

ぼくたちは考える
何をか教え合うことはしないくせに
考えてるってことを隠したりしない
そのせいで会話は少ない

殺すというのも一つの手だよな
間違った考えは優しくて
まるで正しい
たったひとつ浮かぶ灯のよう

もしどちらかが口にしたって
どちらにも正すことはできないだろう
こんなに途方に暮れているんだもの
こんなにも純粋であるんだもの

砕かれても星になったりしない
雪になって毎年降ることもない
埋め尽くすことも覆うこともできない
何よりそしてもう会えない

溶け合いたかった
最高の思い出も全部
何本目かのバスが二人の前を通過する
あなたはとつぜん気づいて顔を上げる

もう見えていないんだ、私たちって

手を握ると握り返してくる
とっくに物事を終えていた
安堵のため息をもらして空を仰ぐ
知らない星座ばっかりだってあなたが笑う

2+

No.572

ワルツを
ワルツを
誰もいないホールで
キラキラが舞っている

実体未満の感情
打ち明けられなかった秘密
こぼれなかった涙が
満月に引き出されて

輪郭がにじんでる
ぼくから連れ去ろうとする
鮮やかさは奪われて
優しさが最愛を殺すの

そんなこともある
そんな夜もある
ダンスを
ダンスを

誰だって一人で踊る
視線が絡まないよう
迷わず振りほどるよう
淵に来て、ターン

閉じ込めても良い
どこに行かせなくても良い
きみは年をとった子ども
孤独だったぼくが光を編んでつくった命

5+

【雑記】配分と残された時間

根がインドアもインドアなので「やりたいこと」「しなければならないこと」がごっちゃになって配分うまくいかなくなる時が大人になった今でもあって「だめだめだなあ」て思う時と「しあわせなことだなあ」て思う時がある。

どうやら「しなければならないこと」の割合に圧されて「やりたいこと」が消失する人も多いらしい。

なのでもし「まだそんなことやってんの(はまってんの)?」て言われた人とか、あのね、まじで大丈夫、誇りに思っていい、なんでもいいよ、アニメでも漫画でも小説でも雑貨づくりでも創作でもマッチ棒クイズとかパズルとか竹とんぼとかゲームとかカラオケとか石投げとか空想とか円周率とかなんかそういう「お金にならないもの」(って、オトナが思い込んでる類)に今でも夢中でぜんぜん幸せなことだよ。

そう言ってくるひと心底うらやましいんだろうなあって思ってる。

口に出したら「ちっげーし!」て全否定されそうなので心で思うだけだけど、けなしてくる人とか見下してくる人は、無い物ねだりさえも素直にできなくなった人たちなので、いつまでも偏執狂でOKだよ。超嬉しい、ありがとう、て思っておけば。

変なこだわり、意味ないこと(と、多くの人が勝手に認識していること)、(すぐには)お金にならないこと、うむ、万々歳じゃん。

もうそれしか生きる意味ってない気がする、最終的に。

お金って、お金ってね、ほんとうは簡単なんですよ。手に入れるの。間にいろいろはさまって難しくなってるだけで。まあ、はさまってるときでさえ難しいことはないんだけども。見直すきっかけがない。

でも、好きなことや夢中になれることって、一度なくしたら難しいんですよ。

そのうえ、好きなことを続けるにはやっぱりお金が必要で、となると配分をうまくするか、好きなことをお金にかえる努力すればいいのかなって思うけど、ここがちょっと違って、得意なこと・できること、もっとひらたくいうと「他人より苦痛じゃないこと」でお金を稼げるといいんだなあ。

「はー、まじきつい」「むり」「だるい、かわりにやって」「おしえて」

って、他人から言われたことを、自分が(そう?)(それほどでもないけど)って感じたら、あなた、それは見落としちゃいけないことですよ。

たぶん。

最終的に見習うべくは年配の方だと思う。

お金と健康と趣味。
もうほんとこれ。
最終的にこれすぎる。
これには労苦やお金を惜しまない所存。

お金は別としてあとの2つは取り戻すのに時間がかかりすぎるのと、失ってる間のダメージはんぱないからコスパ的な何かが悪いんすよ。どうせ100年だしー。でも100年まるまる残ってるわけじゃないじゃん。今20の人だってさ健康ないがしろにしてたら60とかで寝たきりになったとして、それでもあと40年?きつくね?むりじゃね?

って考えるべきだし、そう考えてる大学生知ってほんと焦る、おねえさん焦った。すっげーなーて思う。老人と若者には学ぶことが多い。つまり、そうか、みんなか。みんな先生であった。

3+

No.571

七年前に買ったレースが今日も窓辺で揺れている。本を、読みたくない。行間が躊躇い傷に見えるから。思い出すかもしれない。あなたに救いはあったんだろうか。町内放送が空に付箋を貼っていく。群れていた小鳥たちが散り散りになって虫を捕まえに行く。たまに付箋に衝突して墜落してくる。深呼吸をひとつ。これだけのために何百年もかかった。瞬きをひとつ。このために千年を超えてきた。どうしてちゃんと分かりやすくしておかないんだろう。見落としてしまうところだった。分かっているのか、見落として、しまう、ところだったんだ。すべて仮定でしょ。狡いんだから。あなたは呆れたように笑っている。この奇跡のためにいくつもの夜を越えてきた。数え方が分からなくなるまで夢を見た。ここも妄想の続きかも知れない。いつだって作り出せる体温は証拠にならない。なかなか醒めない。深い、長い、物語だ。甘い、眠くなるような、今となってはもう、欲しかったかどうかも、分からなくなるような、いっときの風だ。

5+

No.570

そうでもなかった
言っちゃっていいかな
前ほどじゃなかった
そう言っても?

雲と風ばかり流れる
見えない光について書いている
視覚に負けないように
ここにない香りを嗅ごうとして

好きな人の好きだった人の
出ている映画がそこそこ綺麗で
好きになってしまったんだ
あなたが今ようやくわかった気がする

同じふうに見ていられない
その軸はあなただけのものだから
舞い上がるプラスチック片
頭上を覆う枝葉に悲鳴が絡まる

平気でいることができたんです
あなたの愛するものが誰かに愛されていると
悪くないと思えたんです
そしてマグカップに新しいミルクを注ぐ

生きていくんです
死ぬことなんか考えないで
あまりに当たり前でしょう
生きることは死なないことです

もったいないものなんて無いんです
向こう見ずな選択肢は失われた
あなたが素直になれないくらいで
ぼくが支配する何も妨げられたりはしない

3+

No.569

『さよならヒーロー。』

ひとつになりたいですね
ここはあったかいですね

あなたは矛盾をいう
カモフラージュするみたいに

人間ってこういうものでしょう?
愛ってこういうものでしょう?

すがらなくても生きていけるのに
とんだ暇つぶしを見つけたあなただ

まともでいられるはずないんだ
溶け込むなんて到底無理だ

だいじょうぶ、
わたしたちって大丈夫なのよ。

夜空の向こうに宇宙があるって
誰も疑わない星の上でも大丈夫

根拠もないのに
根拠もないから

あなたばかりがまぶしいんだ

よかった、もう、
誰のことも救わなくていいんだ。

1+

No.568

惑星?ううん、ミジンコ。
どうしようか、あまりきみが輝かないのは。
繰り返し再生するうちに違うものを見ていた?
いいえ、勝手に作り変えて恋をしていた。

秘密にしていたせいだ、
誰にも盗まれないように、
あたかも盗まれるもののように、
扱いたかったぼくの弱さのせい。

きみが弱くなったのかぼくが強くなったのか、
きみが白くなってぼくが銀色になったのか、
分からないまま終わりにしたい、
だけど答えがぼくたちを捕まえるんだ。

目をつむって指先だけで、
どこにでも行けたぼくたちだった。
耳がなくても同じ歌を歌えて、
皮膚がなければ溶け合っていたぼくたちだった。

2+