no.77

あなたが憎くて
おまえさえいなければ薔薇色だったと
呪って歪んで虐げて
それこそを諸悪の根源とみなし
金輪際あらわれてくれるなと
心底思いながらそれでも

それでも殺さなかったものが
いつかあなたを救うだろう

強い眼差しの残像で
優しさを含まない裏返しで
罵りながら嗚咽していたこと
知っていたのは
知っているのは
後にも先にもそれだけだから

花の名前を教えるといい
それはいつかあなたのもとを去るが
花は毎年朽ちるだろう
そして次にはまた咲くだろう

軽率に振る舞える贅沢を
邪険に扱える幸福を
僕たちは繰り返し確かめている
涎にまみれて反芻している
どんな不条理だっていい
忘れないように
消えないように痕跡となるなら

遠ざかる笑い声
君を
君と僕を蹴って不自由にした
あれも今は善を囁く
無垢な瞳にそれは吸い込まれる

あたかも真理として
あたかも絶対として
あたかも愛情として
あたかも崇高として

苦痛や絶望と引き換えに
黒い目は諸々を飲み込んでゆく
新しい土地へ旅立つために
古く新しい季節を回すために

誰がいなくても
誰がきかなくても
見えも触れもできなくたって

僕が空に歌っている
この足で立って
この肺で吸って
この鼓動に合わせて
六本指の軽快な手拍子
君は僕を本当に好きだね。

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no.76

乾いた手がまた乾く
時間がたりないと言って
濡れた指がまた濡れる
時間があまりすぎると言って

あっけなく飛び立つんだね
いろんな理由で
さかさまになっていくんだね
ないものを反芻しながら

満ちるということ
それを知ったばっかりに
もう十分と言えずに
呪う相手も持たずに

めぐる季節に愛想を尽かされ
風のなかにいるみたい
海のなかにいるみたい
本当はずっと群衆のなかで思ってた

普通は怖い
それだけは言えずに
普通は悲しい
それだけが言えずに

交錯する
僕と君の不条理な時差
三角定規の鋭利な辺で
何と何を残して奪って目配せしよう

かみさまと上履き
カスタードと円周率
一年前に見失った新しいルーペ
夕焼けの赤が飲み込んだ無名の無数の擦過傷

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no.75

誰も相手にしないで
雪の絵を描いている
真っ黒な瞳で
ひとりできみは

新しいまま放置された車両の中
忌避する言葉を選んで
海にむかって放って
何度も何度も放って

どんなに関係がなくても
関係性を付与されること
その不幸から逃れるために
限りある時間を損なわないこと

そんなことかもしれない
ぼくが約束しなければならないのは
雪の絵を前に
投影を続けたきみの夢の手前で

引きずり出される夜明け
意味を与えるための
押し付けの希望
ありがとうと笑って生きる

ぼくの描いた世界で
きみは息をひそめて
きみの描いた世界で
ぼくはきみを描いている

十年
百年
一千年

永遠を求めるなら
永遠を望むなら
それは蓄積の結果でないと
分かってしまったほうがいい

それは刻まれた一瞬の中に
それは頼りなく舞い降りた雪の欠片に
それは海底を揺蕩うひとつの粒子に
それは明日に破られる絵の中に宿った

きみもぼくも間違っている
正しく謙虚に間違っている
清く美しく未来のために間違っている
たった今誰かの罵詈雑言のために間違っている

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no.74

掌に包んだもの
指の腹で撫でた記憶
どんな
どんな形でもいいから

壊したいと思う
僕だけのせいで
それが壊れたらいいと思う
一瞬にして永遠に

名づけられる間もなく
認められる隙もなく
眼差しと眼差しの溝で
予感の組織に落ちぶれて

輝かないように
息を潜めておいて
見つからないように
生き延びておいて

あとすこし
ほんのすこし
それで
それから

真犯人にして
僕だけを
たったひとりの
最初で最後の

優しい優しい三面記事
忘れ去られる幸福への淡い期待
儀式と呼んだら騙されるかな
人間はいつもかたまっていて可愛いね

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no.73

みつけるために失おう
気づくために忘れよう
帰るために迷子になろう
ほどくために絡ませよう
仲直りのために喧嘩しよう
愛のために戦争しよう
健やかのために不摂生しよう
きみがためにぼくになろう
朝のために夜を呼ぼう
右向くために左に寄ろう
まんなかを作るためはしっこへいこう
歌うために口を閉じよう
夢見るために目をつむろう
思い出すために今になろう
光のために影だって食べよう
(シューの内部は臓器でいっぱい)

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no.72

この声は染みこんでもいい
この色は染めてきてもいい
目を閉じて耳をふさいで
この時のために無知で来たよ

きみが何かを語るとき
ぼくが何かを捨てるとき
ふたりは昨日朝方の肉片
魂は今日もレールに残っている

電柱に落書きされた神様が
真っ暗な瞳で真相を見ていた
だけど口は無いから告発しなかった
その瞬間切符越しに傷にふれた

行き先は霞んで消えそう
ぼくたちをどこへも連れて行かず
どこからも旅立たせることのなかった
冷たく硬い切符越しに初めてふれた

おはようの終わりに
はじめましての左で
さよならの続きとして
わざと違えたスペルの暗号

行き先を読み上げると切符は溶けて消えた
動いているものは流れ出した血ばかりの朝だ

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no.71

終わりかたを考える。始まったばかりのブリュレや、巷で噂の流星群。雨が降り始めた、休前日の夜。開いて間もない本の上。他には例えば新しい関係。君との出会いも。どんなふうに終わってしまうんだろうと。だから新しいことは億劫で、星は産めない。僕より臆病だった君がもう別の人間に見えるよ。こんなにも尊く感じなくて済んだのに。率直な言葉でしか表現できない拙さについて。きっとあのとき光を捨てればよかったんだね。だけどそうさせない何かをずっと信じていた。それはたぶん今も中心にほど近い場所にあって、楽園の捨て場所を見張り続ける。残された今、無愛想でちぐはぐの片割れたち。慈しむに事欠いて暴言の応酬。見えないものだけ柔らかい。いつかの君の思い出を吸い込んで、真っ暗闇になった夜。僕だけが光源であるというこの世界の絶望。行かなきゃ。もう離して。

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no.70

月が満ち欠けすることほどに
不安定に当然に期待されずに
僕の魔物がまた目を覚ます
新しい優しさが届く前に
君のための泣く部屋を蹴って

雨の中に誰かの足音を聞く
ひとり、ふたり、みっつ、しにん
風の中に誰かの喉笛を聞く
いつつ、むっつ、しちにん、はち
数の中に誰かの残り日を聞く
ここのつ、とお、とお、とお

(十より先はまだ知らない)

何の問題も無いことを人前で曝けることが
何やら酷く恥に思われて奇形を謳った
満足な手脚であること満足な故郷であること
その裏切りは贅沢で甘美で毒性の高く
誰も誰も決して真似してはいけない類い

空から滴るかの日の茜した羊水
死は、
新しい優しさのために踏み躙られた
選ばなかった生は、
糾弾を恐れて遠雷に呪詛を紛らせる

天から迫る灰色した雲の塊
孕んだ不吉を僕へ転化したがって
地から湧き伝わる振動の嘆き
圧されてなお平気な僕をまるで憂えて

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no.69

満ちたとき
愛だって繰り返さなかったとき
平和だったとき
平和って言わなかったとき
ほんとうに幸せだったとき
まだ知らなかったとき
幸せという言葉が
浮かびもしなかったとき
危機は反芻が暗示する
不安にならないとき
おまえすこし頭おかしいねって
きみが笑ってぼくから興味を失うとき
金平糖じゃないから噛み砕くことはできない
いま少し愛と平和で幸せだとする
生まれなかったときに比べて
死ななかったときに比べて
ほんの少しは、幸せだったとする

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【ネタ】おきにめせば

「好きだ」とか「愛してる」とかやたら言ってくるし公衆の面前だろうが構わずべたべたスキンシップしてくる吸血鬼にだんだんイライラしてきて「何でいつも軽々しくそんなこと言える(する)わけ?」ってブチ切れたら「だってお前たちはすぐ死ぬだろう。だからおれは言いたいときに言う。したいときにする」て言われていろいろ心境複雑になる男子高生が主人公のBLを読みたい。

寿命格差もえ!
遺す苦悩、遺される苦悩。

この時に男子高生の思考の焦点は次のふたつに絞られる。

・こいつはこれまでにもおれじゃない誰かに対して同じ事をしてきた(=唯一の存在としてのアイデンティティー喪失)
・そしておれもこいつより先に死ぬ(=連綿と続く交流史の一コマでしかない自分に対する焦燥や絶望感)

そして彼は何をされても感じなくなって吸血鬼に対しても冷たくなっていくけどそれはもともと芽生えてた初恋の裏返ったものを無理矢理延長してる類だから後から凄いのね、嫉妬とか歪んだ感情が。そしてなんとか自分が「最後のひとり」になりたいって考えて不死の男の殺し方を発見するために学者になるんだけど結局一生かかって見出せないのね。死の床で傍に寄り添う吸血鬼の昔と変わらぬ姿を見て、諦念とともに(もっとまっすぐ気持ちを伝えていればよかったのかな…)ていう一抹の後悔を抱えながら息をひきとる老人を見下ろす赤い瞳が優しい。

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