No.652

頭上にグラデーションの花を見た
あたたかいはずの温室で
風が吹き抜けるのを感じていた
ビニールに包まれていた僕の死体

とどまっても何もないよ
こんなところ
雲雀がそう話す
天国なんかじゃないんだから

雲も水も同じ輪っかを行ったり来たり
見覚えのある風景
いつかどこかで流れていた音楽
みんな飽きて出て行くんだ

でもすぐに忘れちゃう
つまりどこにも行きたくないんだ
存在をしたくないんだ
私だってそうなんだ、

手のひらに何かがすっぽり収まる感触

僕は目を覚ました
いつか繋がるけど今はぼやける太陽
覗き込むグラデーションの花
名前も知らない小鳥の死骸、だれ?

輪っか
天国
存在
つまりどこにも、どこにも

記憶がみるみる溶けていく
紅茶に落とした角砂糖みたいに
今となっては夢かもわからない
僕はこの温室を出て歩かなきゃ。

3+

【雑記】きっとたぶんおそらく防衛本能

春をいいと思ったり、花をいいと思ったり、子犬はかわいいと思ったり、子どもはいいものだと思ったり、緑を愛でたくなったり、身だしなみより食にお金をかけたいと思うようになったり、なんだ、そうだあれか、私はもうすぐ寿命を迎える裕福なおじいさんか。

やがて平成最後の春が、はじまるんだな……。

エモい。

何をするときも「平成最後の」つけ始めたので「まただよ」って言われるやつ。

そう、さいきん自分で「そうか!」って気づいたことがあるのできいてください。

人って道に迷ったとき「自分のことが分からなくなった」「これまで何をしていたか分からなくなった」って言うでしょ。あれって逆なのかもな、って。思ったんだ。そうすると「そうか!なるほど!」となりまして。分からなくなったんじゃなくて、分かってしまったんだよ。これまで自分のしていたことが無意味だってことが分かってしまったんだよ。分からなくなった」って言ったとき、ほんとは「分かった」状態にあるんだよ。突然で認めづらいだけ。でもほんとそう。

ふと我に返ってしまったんだよ。

思い返してみると「分からない」って言ってる時って、たいていそうじゃね。分かってしまったか、分かりそうになってしまっているか。今までの自分がばかに思えて、やってきたことが稚拙に思えて、うわーってなることを予感するから「わからなくなった」と言って逃避するんだよね。防衛本能だよ。

うむ、人は儚い。

私はというとおやつタイムにドーナツいっきに3個食べたからお腹が張っています。喉の通りを良くするために白湯のんだら上顎やけどした感じです。ぶじです。元気です。

3+

No.651

おまえと暮らしていると、自分が自分じゃなくなる感じがする。もっと言うと、自分がこの世からいなくなったあとの世界を見ている気がする。こんなに確かなのに。今ほど確かな日々はなかったのに。予行練習をしているみたいだ。単純な聞き間違いに、いつか来る別れを見た。おまえはやがてぼくに捨てられるだろう。だから優しくする必要はないのに。こんなにすべてを捧げる必要はないのに。「だいじょうぶ」「だいじにします」「だいすきです」。おまえの言葉は「だい」から始まることが多い。(だいきらいだ)。ぼくは大抵おまえのようになれないので、せめてショートケーキのいちごを嫌いなふりをする。「え?ほんとに?もったいないなあ。おいしいのに。ほんとにほんと?じゃあ、食べちゃいますね」。おまえがそれを好きなので、ぼくはそれを嫌いなふりをする。

3+

No.650

桜を見上げるひとに焦点を合わせる
すこしだけちらつく残像
ここは命あるものばかりでできている
発動していない死がこんなにもたくさん

はかないね。きみの言葉に頷く
はかないって、よくできたかんじだね。
きみの言葉にまた頷く
頷いたあとで、ああ漢字、と気づく

野原に命がこぼれている
川に命が流れている
菜の花の上を命がはばたいている
ぼくの頬を命がすり抜けていった

ずっと一緒にいられたら良いのにね
きみはたまに永遠に執着する
永遠のこと、ぼくはよく分からない
良いか悪いかも感じない
でも奇跡なら毎日見ている

ごはん、食べよう。
きみの言葉に頷く。

おにぎりとサンドイッチ。
梅おかかとシャケ。
卵ハムサンドとシーチキン。
緑茶とカフェオレ。

これはおどろいた。
どちらもつくってきたのか。
そうよ、あなたわがままだったから。
お互い不機嫌にはなりたくないでしょ。

きみの言葉に頷く。
頷いてばかり。
ぼくはもう話せないからだ。
永遠は知らない、奇跡なら毎日見ている。

4+

No.649

伝えたい言葉が尽きたんだ。言葉は君に敗北した。見えないものに宿るもののことを信じるか信じないかで、喧嘩にもなったね。月が膨張するんだよ。ほんの少しね。君が眠ると。月は、いま生きる人といつか死んだ人が曖昧になる空間なのじゃないかな。そう思うんだ。だって、ほら、眠りって死に近いだろう?月はそれを見てるんだ。世界中の眠りを。部屋の壁に飾るたくさんの写真が、時間はいずれなくなることを教えてる。僕らも例外ではない。朝に起きてふと気づくんだ、僕はどうしてこんなところに。とほうもなくて、取り返すすべもなくて、忘れたくて呪うよ。逆効果なのに。あの日、花に隠した本音。受け取って土に埋めた魂。悪くないと言い聞かせてここまで来たんだ。潔癖のまま、おとなになることを選んだんだ。だから言葉は尽きたんだ。言葉は尽きて今ここにないけれど、君に会いたい気持ちは消えない。耳をふさぐとたちまち満月の割れる音がする。耳をふさいだことを後悔させるために。おそれるな。目を開くと花吹雪の夜だ。カレンダーを振り返って「今年も」とつぶやく。今年も君を忘れられなかった。僕がてくてく帰った部屋で、君は花の夢を見ている。心許ない月明かりの下で、永遠に舞い散る花をきっと見ている。

4+

【雑記】見えないものを見ようとして

とつぜんですが、私、両目裸眼で1.5なんですよね。

こないだ診察に行ったら医師に「視力が良すぎる。疲れるでしょうね」って言われたんですよ。

へ〜、なるほどな〜。視力が良いと疲れるのか〜そうか〜。と。

で、帰り道「なんで私って視力いいのかな」と考えてみた。だって基本インドアで小さい頃から液晶画面がお友達で、もうちょっと視力悪くてもおかしくない生活をしてるんですよ。そしてそれはこれからもかわらないだろう。

仕事もPC使うものだし、今や日に12時間は液晶画面と向かい合ってるんじゃないかな。まばたきの回数も少ないし、なんで視力良いんだろ?親兄弟も割と早い段階で悪くなったし、コンタクトもメガネも不要なのは私くらいである。

それなりに考えてみて、勝手にたどり着いた結論が2つあります。根拠?ない。

1つは、「慣れ」ですね。小さい頃から液晶画面がお友達だったから適応したというか、人体が液晶画面に強いかんじに変化したのかな?(適当)

もう1つは、こっちが有力候補なんだが、道歩く時に360度遠くまで見据えてるってことでしょうか。

つまり、あまり会いたくない人がむこうから来た時に、相手より早く相手の存在に気づきこちらから身をくらます必要があったわけなんです。なぜなら立ち話するのとか、あいさつするのとかめんどいから。相手の視界に入って認識されてからじゃ遅いので、ていうかそんでいきなりこちらが進路を変更したら相手を不快にさせてしまうだろう。そうなるとベストアンサーはこっちが先に気づいて早めにUターンもしくは手頃な店先などに身を潜める必要がある。何はともあれとにかくスピード優先。そんな逃亡者のような気持ちで生活してきたなのかな、って…。OK、わかってる、自分で語っていてどうかと思うよ。

あとは、道行く人ある程度みんな悪意か殺意があるのではないかと思って歩いてる。「誰でも良かった」あとからそう語るような通り魔じゃなかろうか、ふところから刃物を取り出していきなり切りつけてくるんじゃなかろうか、ひったくり犯じゃないか、体に爆弾まきつけているんじゃないか。そんないけない妄想をしている。もし不穏な動きが察せられれば私はいち早く彼もしくは彼女から距離を取り不本意ながら他人の家屋内などに逃げ込まざるを得ない。とにかく不審者の不審な動きを先に察知することが先決であって、これが1秒でも2秒でも遅れたら命取りになるかもしれないんだ。

そういう気持ちで生きていると視力は両目ともに1.5を保てるんじゃないかな。

でもきみはきっとこう言うだろう「そんな暮らしはしたくない。つらい」そのとおりだ。きみは正しい。ザッツライトすぎ。

冗談はさておき、ブルーベリーのサプリは飲んでる。

でもサプリってずるいよなー。

サプリ飲んでない人生を私は知らないわけだから、飲み続けるしかないよね。でもブルブルくん(わかさのマスコットキャラ)との付き合いもはや6年になるもんで、おいそれと離脱することもできないんだよな〜。こうやって高齢者はいろいろな悪徳商法にハマるんでしょうね。

ただ、「気休め」というのもまた1つの立派な効果効能だと思うので、これはこれでいいかなって。気休めにもならんものってもっと他にあるでしょう。あれやこれや。

3+

No.648

あまい。甘い、乾いた匂いのする棚から一枚のレースを引っ張り出して、ごっこあそびに使おうと思う。無限の明日の滅亡ごっこ。ぼくらは罪悪感にさいなまれる子羊で、だけど一番の願いを知っていて背かなかった。周囲を傷つけることに鈍感で、自分たちが壊されそうになることに敏感で。てんごく。天国へつながるアパートの踊り場。蜜蜂に集めさせた他人の不幸を、孤独な少女がティースプーンで舌へのせている。回数を重ねて血がかよう。綺麗なことと残酷なことは紙一重で、認めたくないひとから燃え上がっていった。雪の日のマッチみたいに。つめたい。冷たいドアを開けることができなくて、妄想は砂場の砂にからまっていた。そと。外は、銃弾のような雨だね。憎む相手もいなくなって、ひたすら地面に打ち付けるだけ。逃げていく陽だまり。なみだ。溶け合う地上の涙。あの棚から持ち出した、たった一枚のレースじゃすくえない。こぼれ落ちて嫌な思いをするだけ。だから離さない。だから誰にも渡さない。ぼくらのごっこあそびにしか使えない。正常なら、落ちてこぼれた。正しさを説くひとのいない、ここでしかぼくら生きたくないんだ。

3+

No.647

赤い点滅
聖なる領域が飲み込んでいく
ノートも花壇も棺桶も
解読を望まない暗号も

有識者が扇動する
ぼくらの未来を左右する
今だって正論に侵食されてる
祈りはしない、だって叶わないだろ

進みたいと思うんだ
目をつぶる言い訳が祈りなら
取り戻したいと思うんだ
昼も夜も忘れないなら

立ち上がるために挟んだしおり
明日があるという無邪気な期待
もし裏切られるんだとしても
予感だけでうずくまりたくない

ぼくらは嘘を見抜くことができた
ぼくらは暗号を解読することができた
ぼくらは遺伝子の組み替えができて
ぼくらは新天地を創造できた

その一方で

ぼくらは花の色が分からなかった
ぼくらは雨に濡れないために傘が必要だった
ぼくらは眠らないと疲れてしまうし
ぼくらはぼくとぼくでは生きられなかった

大切にしたいわがままと
大切にされたいエゴを売って
飲み込まれていくものを羨んでもいる
連れ去られるものを軽蔑してもいる

(脈動なのよ、警笛じゃなくて、
あなたに見えている赤の点滅は、
あなたが生まれる少し前に、
私が感じた温もりなのよ)。

5+

No.646

守ってあげたい。と思っていた、守ってあげられる。と思っていた。きみの何気ない言葉がぼくに、あやふやじゃない現実を突きつけるまでは。いつでも優しくて強かった。知ってるのはもうぼくだけじゃなかった。巻き戻せたらなんて言おう。巻き戻せたらどう振る舞おう。そんなこと考えるんだ。そんなことしか考えられないでいるんだ。素直になんかなれない。本音は永遠に語らない。知らないんだ。要求するなんて、知らないんだね。本音がどれだけ汚いかってことを。消えればいいって思ってる。きみを好きなあの子も、ぼくを好きじゃなかったきみも。日常を送るこの街も、そこそこ平和な何もかも。無関係なものだって今じゃ観衆に見えるんだ。笑ってるんだ。安心してるんだ。今回も異物は排除されそうね。そうだろ、残って欲しくないなって思ってる。だからカラーセロハンを重ねてく。照りつける太陽をにらんでる。境界がぼやけるまで。涙が蒸発してしまうまで。逃げて、逃げて、今のうちにぼくから逃げて。きみを好きでいられる魔法がとける前に。ぼくがかけた魔法がとける前に。魔法よ、魔法よ、ぼくを化け物へもどさないで。きみはあの子を連れて逃げて。

4+

No.645

また風が吹くんですね。花を散らす風が吹くんだ。砂が舞い上がるのは嫌いだ、だけどあなたの姿を浮かび上がらせてくれることがある。

ぼくはベッドの上にいながら世界中を旅した。凍りついた町、色とりどりの港、潮の香りがする通り、そこかしこにこぼれ落ちた悲しみを、拾い集めて歩いたんだ。

そんなこと、やめたら。あなたは言う。そんなこと、しないでいたら。あなたは言うが、変わらない。あなたがぼくにしていること、決まった時刻にこの部屋を訪れ、ひとつのりんごを剥いてくれることと、本質は変わらないんだ。

ぼくはたまに寝たふりをする。それくらいしか驚かせる方法がないから。朝が来ればあなたが訪れるという、この部屋は、世界中どこを探しても一番の部屋だよ。

どんな景色を見たって、美味しいものを味わったって、すべてはここへ帰るため。ただいまって言うためのさよならなんだ。

だから今回のもきっとそう。ぼくはしばらく目覚めないけれど、またここへ帰ってくるよ。あなたは気づかないかも知れないけれど。

風を吹かせて花を散らそう。立ち止まりたがる時間を、次の季節へ連れて行こう。

あなたはたくさん泣くだろう。曇りが晴れて世界が見えたら、どこまでも歩けるあなたになるだろう。ぼくが旅したかったこの星の上を、どこまでも歩けるあなたになるだろう。

4+