no.432

人体に珊瑚色は備わっていない。きみはぼくを凡庸にしてしまう。泣くこと、こんなに簡単だったんだね。壁なんかなかった。見えないものを勝手に見る目が、真贋を見極めるふりをしていた、他に使い道のない特権で。

夏になると現れるぼくの人魚が、もうシュートできないバスケットボールを抱えている。卵を守るみたいに。楽園は液晶の中でじゅうぶん美しいからわざわざ本物を見に行く必要はなかった。ワンルームで、溶けない氷にシロップをかける。月額4万円の。

人魚は断罪のためなんかじゃなく、他愛もないわがままを言う。そしてぼくには拒否しない自由がある。永遠なんてどこに見つからなくてもいい。いつだって感じることができるんだから。シアンが足りない、この、他所者を迎え入れるにはあまりに怪奇なこのワンルームパラダイスにおいて。

まばたきするたびに鱗がオーロラに光ってる。痛いです、神さま。はやく終わりにしたいです。そう、これも、わがまま。以前の、言葉、の遊戯。子どもみたいにいつまでも無頓着なわけじゃないよ、きみがもう履かなくなったシューズを壁にかけっぱなしでいるのは。優しくならないでほしい、許すだなんて言わないでほしい。王子様になれないなら、ずっと嫌われていたいんだ。

泡にならないよう、消えていかないよう、きみが期待したってぼくは裏切らない。それがぼくたちの過ごす楽園での、たったひとつの、さいしょでさいごの、破ったとしても誰にも裁かれない掟。小瓶の底にいるのと変わらない。悲劇とは思えないでたゆたっている。

夢に見ながら。口ずさみながら。たまに目配せをして。笑い合ったりもしながら。運命、なんて、すごくどうでもいい。心底どうでもいいです。名前なんて剥奪してもいい。ぼくが加害者であろうが、きみが被害者であろうが。まるで過不足がないね。だけど人前では悲しい顔をしていようね。だって、平気だろう?

1+

no.431

潮が引くのにさらわれないぼくを意識していた。太陽がのぼっては月に追いやられ、夜の上に朝が何度も降り積もっていた。

雪を初めてみたあの人みたいに一日の終わりと始まりを見続けたって飽きることはなかった。拳銃、それは、友達ですか?

複雑めいたアルゴリズム。本当はとってもかんたんなこと。願いを打ち破られないよう魔法をかけてあるんだ。それは柔らかく頼りがないから。

壊れてくれたら楽だったね。愛をさせてよ、愛をしていてよ。守りたいって、いつも口にする。

かわいそうだよ。言ってくれるきみがいないから、こいつを鳥かごに入れておく必要もなくなった。飛んでいけ、味気ない自由に見放されまでは。誰にもかえりみられないふたりを彩るために。

沖。はぜる。蟹。どろ。飛行機。そら。山。うみ。

ぼくは書く。

草。はな。すみれ。砂糖。充血。思い出せるもの。新しいもの。病みついたように。

文字はさらわれて深海でくらげにでも生まれ変わるだらろう。いま、いま、きみが思い出になっていく。遠く離れるよりもはるかに、ぼくごときにどうしようもなく。光なんか要らない。ここはじゅうぶんもう明るい。

3+

【雑記】バターはきみどり

深夜2時に怒りに似た何かのせいで目が覚めてしまったんですが、こんな時間にも走る車があると夢しかない。

しばらく眠くなるまで文字を書いておこうと思うんですが、アボカドって美味しいよね。あれは、さ、そもそも何か?果物なのか野菜なのか。そう思って調べたら果物だそうだ。これは結構意外で「あ、そうなの?」ってなるくらい。でも一度知ったら「うん、そう」ってなるから人間は汚いと思う。

なんでアボカドがあんなおしゃれな感じかって思ってて、だけど嘘だよ。私は、あれは嘘つきが食べるものだと思っている。食べたらわかるんだけど、まろやかなのね。もったり、まろやか。森のバターと呼ばれることもある、つまりバターなんだよ。アボカドをサラダにのっけて食べるひとは本当はバターをごろっとのせて食べたいんだけどもそれじゃ周囲から何言われるか分からないからとりあえずアボカドのっけてみっかって魂胆でしょ?知ってるんだから。だって美味しいもんなアボカド。アボカド大好き。

アボカドと生ハムはサラダの鉄板だよね。なんならもうサラダとか要らないから。野菜部分ぶっちゃけなくてもいいから。じゃあもう単体でいいんじゃね?ってなるでしょう?そうなんだよ。自分に素直に生きたい。

誰も傷つけずまろやかに生きていきたい。ホラーコミックみたいに。芸人みたいに。どんなぐさぐさ刺したり見下すようなツッコミしてても演技じゃん?イミテーションじゃん?その先には「楽しませたい」があるのでしょ?絶叫マシーンもそうだよ。その身なりから想像もつかなくて人を恐怖に陥れたりもするけどやはりそこには楽しんでほしいなっていう思いやりがあるのでしょう。そういうことだと思うんだ。

みんながそれぞれ、持てる能力をのびのびさせて、頑張らないでも発揮できる部分で、広く社会に貢献できたらいけたらなって思ってる。そんな未来になってほしい。いや、そんな今になってほしい。

おわり

2+

no.430

この手を離すこと
きみが逃げ切るためには
ぼくを救った透明のビニール傘に
色がついて前が見えなくなっちゃう前に

大切なものを大切にしすぎて
壊してしまうなんておかしいよ
わかっていたのに壊れたんだ
それは、壊れてしまった

時間は止まらなかった
世界はおろか
ぼくひとりの時間さえも
絶望にそんな力はなかった

活字を切り抜いていた
さかさまの影で生きられるよう
手首は良くないよと言った人が
澄み切った目の色をしていたから

いじわるな手紙の届かなかったことを
今なら良かったって言える
こういうことの繰り返しなんだろう
壁に向かった答えあわせばかりだ

当事者でないから苦しくない
明日どうやって目を覚ますんだろう
景色は少し変わっているかな
手を離したら嘘が鮮やかになってしまうね

(きみの食べる朝ごはんが
美味しいものでありますように。)

1+

no.429

思い出さないでほしい
こんな一日の終わりに
きみは偽物のまま美しい
逃げ切れば愛される

(そういうことだった
つまり、そういうこと)

最後に読むもの
放り出された物語
見捨てて行けなかったのは
弱さだとなじられるため

本物かどうか
そこに価値はない
幼いまま奪われる
夢ばかり残される

夏に間に合わなかった
ぼくを忘れないで
色が多すぎて何も見えない
見えない世界で呼吸だけを覚えたい

4+

no.428

きみの腕は食パンみたい
ぼく、まるであたりまえのように食べたいな
それを、だって誰もいらないのでしょう?

雨をすきっていう
しんじられないことがたまにある
要らないものが降り注がれているふうに思うの

だからかな
めんどうくさくて嫌なんだ
傷つけたりしないよ、傷つけられたがっているひとなんか

誰かの思いどおりにはならない
今はきみに対して言っているんだよ
何度でもいう、優しくすることが罰になるなら

空中に浮かぶレモンをみたくて
何度でも海に放り投げる
みんな笑って見えるよ、うそでもほんとうでも

2+