no.447

おねがい世界を暗くして
もっともっと暗くして
うんと不安になったなら
星がポツリと見えてくる

草の上に寝転んで
きみとぽつぽつ話していると
宇宙と会話しているような
星に気づいてもらえたような

気持ちになる
おいしい、
たのしい、
きもちがいいこと

ぜんぶ教えてくれる
ぜんぶ失って
大丈夫だと思える
どうせまた巡ってくるから

とるにたらないこと
無理矢理に笑い飛ばしたり
泣き暮れる必要のないこと
だけど手を握るとあたたかくて

いま初めて出会ったように
奈落につながる瞳をのぞきこむ
生きていると知らないみたいに
これはなんだろうと慈しむ

指先で点と点を結んだら
切り取られて落ちてくる
破片はひんやりつめたくて
口に含むと橙の香りがする

雨の日の教室
シャープペンシルの芯
身を隠した紫陽花の葉脈
きみが隠さない秘密の香りがする

いったん手にすると
それはとたんに弱々しくなる
奇跡を起こせるからだ
魔法なんていらないからだ

5+

【雑記】意外と5ヶ月経過してた

ツイッタアカウント消しました。コンタクトとってくださった方ありがとうございました。
しかしツイッタアカウントの退会申請後の30日猶予期間ってもっと短くならんかな。キャッシュでうっかりログインしてしまって「はい、やり直し〜」ってなるの、つら・・・。
また1から積み立て直しかよー、ってなって天使のような悪魔の笑顔でしょ・・・。

創作展開はしばらくはここだけに専念します。つまり元通りです。

あ、今日で平成最後の5月が終了ですね。
そしたら平成最後の6月が始まりますよ。
そして平成最後の夏が来て去ります。
秋が来て去ります。
冬が来て春が来て新しい元号になります。
せつなすぎて精神がもたない気がする。知らんけど。

そういうひとのために西暦があると思う。

平成が終わっても西暦は残る。
平成が「ばいばい」と言っても西暦は依然として2018、2019、2020…と続けていってくれる。
なんという恩寵だろうね、ジーザス。

3+

no.446

白と水色のあいだ
書き残されたメッセージ
ぼくの魔法とひきかえに
きみが幸せでいてください

耳を傾けなくていい
そう覚えておいて
きみを悪くいうやつに
耐えられないなら割ってもいい

捻じ曲げられた花の茎
裁つに裁てない裁ちばさみ
限りある涙は止めようとするのに
だだ漏れの時間を見過ごすのはなぜ?

たとえば夕陽が綺麗だと思えなくなっても
いつまでも痛む傷を抱えるよりはいいな
たとえば朝の怖くない日が来たとしても
どこかで終わりを期待するよりはいいな

小瓶に詰めるものは
星砂と鉱石
面影と活字
正体がわからなくて香りのないもの

迎えに行きたい
迷子のきみがあと少しで境界線をこえるまえに
そして少しずつ取り戻したい
あと一秒でも遅かったらどうしようもなかった

2+

【小説】六月の冤罪

気象庁の梅雨入り宣言から三日目の午後三時、アパートのこの部屋の玄関チャイムを鳴らす者があった。警察かな。おそるおそるのぞき窓から外を窺おうとしたけれど、どうも向こうから指の腹で塞がれているようで何も見えない。まっくらだ。かと言って、このまま出たところで事情聴取されて連行されるだけだろう。はーあ、どうしよっかな。この家に来たってことはベランダ側もマークされてるんだろうし、ゲームオーバーかな。抵抗しても意味がないなら、うーん、もう、いいです。

「はい」。
おれは、ジャージ姿のままドアを開けた。
ら。
「え?」。
天使かな。
「あのさ、ぼくに恥かかせないでくれる?」。
天使が、しゃべった。
どこかで見たような。かと言ってこんなに、いっそ凶悪なまでにかわいい子をおれは一瞬だって忘れていられるだろうか、いや無理。じゃ、初対面なんだ。不思議となつかしいのはあんまりその顔や姿が好みすぎておれの頭が麻痺してるせいだ。
「ん?」。
「ん?じゃ、ねえよ」。
「かわいいのに怖いとか最高に好きなんですが」。
「能天気かよ」、と言いながら天使はおれの家にずかずかとあがりこんできた。純白のウエディングドレス姿で。衝動に駆られてドレスをめくると、足元はコンバースのスニーカーだった。
顔面を蹴り上げられて鼻血が滴る。
おれが何をした?いや、したけども。
「アダチの家で余興やるって言ったじゃん。ぼくがジュリエットするから、おまえロミオって設定だったじゃん。待ち合わせ場所指定したよね?時間もちゃんと!それなのにおめーが来ねえからぼく変態だったよ?」。
すこぶる。
「ごめん、すこぶる話が見えない。どういうこと」。
おれがしらばっくれているとでも思ったか、天使は「ぐぐぐ」と言葉に詰まった。
なぜおれがしらばっくれているのか、その裏でどんな言い訳や企みを思案しているか、見当をつけようとしているようだった。
いっさいないんだけども。そんなもの。
「…ひとちがい、じゃ、ないかな…」。
ようやくそれだけ振り絞ったおれのほっぺたにすかさず往復ビンタが飛んでくる。さすがおれの天使、手が早い。
「もういっぺん言えるか?」。
胸ぐらを掴まれたおれは「うー」と唸って考えているふりをしているんだけど、それは天使が考えているような理由じゃないだろうと思う。おれは、どうすれば一秒でもこの時間を延長できるかというそのことばかりを考えていたのだ。

「…ひとを、ころしちゃって…」。
「は?…なんで?」。
「…生きててもしょーがねーやつだったから」。
「…ふうん」。
「お金、ちゃんと、ためられないし。彼女も、つくらないし、仕事も、できねえし」。
「…うん」。
「そのくせ、自分よりがんばってるやつが評価されてんの見て妬むし、救いようのねえやつ…」。
「…」。
「紐で、首絞めた」。
「…うん」。
「…そして、どうしたら逃げ切れるか、考えてた…」。
「…」。
「でも、なんか、もう、疲れて…」。
「…」。
「さっきのチャイムも、警察だと思って、開けた…」。

状況が状況だし、俗世で会う最後の天使かも知れないし。
おれが打ち明けている間、天使はただ黙っていた。
もう言うこともなくなってきた頃、天使がすうっと息を吸い込んだ。

「ばかじゃねえ?自分が何言ってるかわかってる?」。
「うん、ばかなこと言ってる」。
「だよね」。
「はい」。
「死んだら逃げらんないよね」。
「はい」。
「疲れるも何もないよね、死んだら」。
「はい」。
「さらに言えば、自殺って、逮捕されないよね」。
「はい」。
「できねえから」。
「はい」。
「他には?」。
「え?」。
「他に言い残したことは」。
「え、特に…」。
「わかった」。

天使が自分の着ているドレスをびりびりと破り始める。あ、なるほど、ご褒美だな?俗に言うボーナスタイムだな?淡い期待を抱いたものの、その下は半袖シャツだった。

「下は、脱がねえ。おあいにくさま」。
おれの視線で言わんとすることを察した天使はせせら笑う。
「そんじゃ一緒に罰ゲーム受けに行くか。立て」。
「え?」。
「え、じゃねえから。おまえのせいで連帯責任だよ。アダチの誕生日なんだよ」。
ごめんさっきから訊こうと思ってたんだけどアダチって誰。
とは、言える雰囲気じゃない。
「あの、天使ちゃん」。
「ぼくかよ?」。
「お名前、なんですか」。
「好きに呼べ」。
「あの、じゃあ、おれの名前って、なんですか」。
「それぼくが教えんきゃなんねえこと?」。
「いや、答え合わせっつうか」。
「何のだよ」。
天使はおれの手を引いて玄関に向かう。存外強い力だ。
「アダチ、泣いてるから。ぼくとおまえの余興いちばん楽しみにしてたんだからな」。
だからアダチって誰。
「行かねえの?」。
天使が振り返る。
ああ、ほんと天使。
考えるより早くおれの口が動いていた。

「      」。

それを聞いた天使はにっこり笑う。
「そうこなくっちゃ」。
玄関のドアが大きく開けられる。数日間太陽を見ていなかったおれの目が眩しさで一瞬ダメになる。
「そうやって正直に言ってりゃ誰もおまえを怒んないよ」。
だから声だけが頼りだった。
声と、おれの体を前に引くその手だけを、頼りにしていた。

2+

no.445

自分を卑しくしてやっと言える気がする。
大切にしてほしい。

熱に満ちた桃色の砂漠。
転生に焦がれて干からびてしまう。

おおきな生き物の影で栄養になりたい。
支えになれないのならその日の食事に。

(もういいかな。)

数字だけが浮上する。

ぼくたちはそれを緑だと見誤る。
ぼくたちはそれを湖だと見誤る。

制限のないイメージ。
こびりついた血。

暴力が恋しい。
錆のにおいが懐かしい。

ここでこうして醸成する。
野蛮な気持ちを持ってもう一度人として生まれるため。

1+

no.444

病室の椅子から立って
起きないあなたを見下ろして
窓の外の水平線を眺めて
同色のまぶたに銃口を向ける

だってまたいなくなるかもしれなくて
ぼくの前から姿を消すかもしれなくて
次は戻らないかもしれなくて
もう奇跡は起こらないかもしれない

ほかのやりかたがわからなくて
たぶん今じゃなくてもよくて
だけど尊いなって思ったら
もう今しかないような気がした

波がちいさく光ってる
どんな言葉も切り刻んで
寡黙であることの優位性を見せつけてくる
ぼくは次の季節を受け止められるだろうか

まぶたがひらいて銃口に気づく
まばたきをしてぼくのことを見る
それからもう一度銃口に視線を戻し
ちいさく笑うとまた目を閉じた

(世界で、いちばん、しあわせな坊や。)

人差し指がトリガーを引く
銃口は火を吹かない
チープな万国旗も出てこない
何故ならそれはオモチャではない

どうしても。

生まれ変わってもかなわない
あなたは知らなかったはずだ
装填されていたかも知れなかったわけだ
それでもあなたはまた目を閉じた

ガーゼの白がいばらの棘より鋭い
途方もなく甘やかされている
ぼくは、許されている
海だけがそこにあって告発者は不在。

本物だったらどうしていたの
嫌いになんかならないよ
そういうことをきいているんじゃない
世界でいちばんしあわせになるよ

怖くなかった?
まさか
ほんとう?
きみがかなしむことに比べれば

甘やかされている
血も骨もつくりかえられていく
あなたは何も知らないぼくに
すべてを差し出すことですべてを受け取る。

2+

no.443

きらきらできなくて、ごめんね。

モデルの男の子が言う。きみの好きなキャンディの包みみたいに。って。きれいだ、そう、言われるたびに傷ついていたんだ。はやくはやくって呼ばれている気がして。蜂蜜がかかった午後に、食べそこねたパンケーキのクッションで、途方もなく時間のかかる殺りくを始める。何年かかってもいい。ほっぺたに楓の茎みたいな引っかき傷をいくつもつくる。上手な笑顔なんてきみらしくないから、あす、早朝、剥がしにいこう。それからふたりでコーヒーを。誰のものでもない朝を。誰のものにもならない約束を。

2+

no.442

いつかこの子はぼくを裏切るだろうか。それも、いいな。それでも、いいや。シャーベット、夢は追いかけても消えたりしないよ。おそれるものがあるとすれば、身動きをやめて蛹に戻ること。傷つかないように、傷つけないように。言葉がとどかなくなることがわかる。今この瞬間に何をすべきかも。ぼくは臆病なまま、誰の血も流すことができない。接触せずに引き裂くことができないから無駄に一歩を踏み出す。文句なら時代に。好きで生まれたわけじゃない、なんて、とっくに誰かが手を付けた常套句。咲くか、この花。今にも泣きだしそうな瞼を覆うことしかできない。

2+

no.441

まもりたいひとができた
そう言うとどんな顔をするだろう

怒られるだろうか
感情を持つなとあれほど教えたのに

ぼくの運命をぼくが変えることは許されない
(あなたはそんなにも簡単に断言する)

しかし予定はいずれ狂うものだと
いつかあなたは知ることになる

まもりたいでは不機嫌になるなら
もっと一緒にいたい、ではどうだろう

鈍感なので気づくのが遅いかもしれない
それですれ違うのもいいかもしれない

ぼくは冷え切ったものが好きだ
あたたまるまでを見ていられるから

あなたが生まれたとき
ぼくはこの世にいなかった

あなたはたったひとりで生まれた
ぼくならきっと耐えられない

どうにもならなくて冷たいままなら
禁じられたことを為す際のいいわけにする

好きなものがわかるともう怖くない
ぼくがあなたを嫌いでなくてよかった

こんなにも凶暴で残忍なつくりものが
あなたをまもりたい生き物でよかった。

2+

no.440

あの熱狂がいつか終わるなんて、だれも思っちゃいなかった。夜の凪のようにかけ離れた、あまりに遠くかけ離れたものだった。だからって幻だったなんて言わせない。再現できない精巧なホログラム。まったく同じと言い張っても少しずつ書き換えられているよ。なるべく繰り返さないほうがいいんだ。ほんとうはね。どうしても眠れない夜に少しだけ巻き戻したなら、あとはそっとしておくんだ。変形しないように。歪曲しないように。いびつであっても愛せるだなんて思うなら、それがまだ原型だと狂信しているだけのことだと思うな。甘いんだよ。何もかもが。ぼくも、あなたも。革靴に宝石を仕込む。誰の、どんな期待も、その仕草に打ち負かされる。ちいさな心臓。個性のない鼓動。だけどそんなものに左右されたりしない。あなたはあなただけを生きる。ぼくがぼくだけを一回きり生きるように。物語は終わらない。だってまだ始まってもいない、この物語は。

3+