no.278

もしもが起きた時に
ぼくとわからなくても
そんな顔をしなくていい
初めてのように接していい

どこまで行っても途切れることがない
いばらの垣根は幻想を膨脹させる
垣間見える断片を繋ぎ合わせて
どんな夢だって何度だって見た

ガラスペンの先で描かれる創作
ぼくときみはこのまま出会わないだけでなく
終わりのないまま取りこぼされる
なくしたスケッチブックはちゃんと棚の中

何にでもレモンを添えたがる
きみの感性には共感できないけれど
好きなことを貫くきみが好きだよ
それを悪く思う人たちの陰口まで好きだよ

強く認識しているという点では
変わりがないからだ
きみのことを強く認識するものは鮮やかで
おぼろなぼくの世界を賑やかにしてくれる

3+

no.277

崖の上から海を見下ろしている
それは何かの口に見える
消化器官では生き物が生まれる

ここでは消えるものが少なくて
明日の今頃には飽和している
どんな進化を遂げるだろう

共喰いの繰り返されるビーカー

研究結果を活用できなくても君は美しい
残酷なまでに何の記憶もなくて
海岸線をなぞると世界の仕組みがわかる

そこでは連帯が信じられている
そこでは純潔は恥ずべきことだ
そこでは他人の血を舐めることができる
そこでは目を合わせないのが原則だ

懐かしいルール
いびつな規則
どれこれも大切に積み上げられた
僕や私のきまりごと

メーデー、また夜が明けた
変哲のない掟
メーデー、朝陽に異常はない
拘束されないという不自由

1+

no.276

その一族は夕焼けを窃盗する
早く夜を泳ぎたいんだ

集めた夕焼けから血をつくり
次の命に注ぎこむ
それだって大切な役割だ

当番制で週に三回まわってくる
手順は簡単

集めた夕焼けを
おおきなシャーレに薄く伸ばしたら
帰路についていた鳥を救出する
間違って紛れ込んだ生き物を

それからピンセットで雲を取り除く
取り除いた雲は怪我に塗る薬になる

鳥と雲がなくなったことを確かめたら
透明な四角い容器に移し
代々伝わる秘密の言葉を囁きかける

そうすれば色彩の濃度は一気に上がり
新しい血のできあがりだ

夕焼けには
ついに言葉にならなかった思いや
誰にも伝えられず消失した感情が
たくさん溶け込んでいるのだから

ふと寂しくならないわけがないよ
ふと懐かしくならないわけがないよ
君たちの体じゅうを流れているのだから

と、一族の一人が教えてくれた。
(僕の知っている誰かによく似ていた)。

1+

no.275

新しいものはいつも
忘れたと思っていた
ふるい記憶を呼び起こす
僕はまだ何からも
抜け出せていなくて
同じ雨に打たれている
浮かれて買った雨傘が
今の唯一の持ち物
練習を重ねれば
ますます下手に
うまくやろうとすれば
ますますぎこちなく
曇り空の真ん中で笑っている
君の名前をいつも思い出せない
誰も傷つけないなんて無理だよ
信じていないんだよ
そうやって傷つけられたことも忘れる
なりたいものがまだわからない
決定を極端に恐れている
それは他の選択肢の放棄だから
綺麗になりたいと思いながら
一方で蹴落としかたを考えている
まるごと好きだなんて言えない
通りは知った顔ばかり
違和感のないものが見当たらない
早く馴染んで埋もれたい
だけど見つけてもらいたい
潔癖症の支離滅裂
明滅するオレンジ、
何の合図にもなっていない

2+

no.274

こちらで勝手に夢を見た
あなたは関係がない
僕の感情に
感受性に
気持ちは重ならない
視界は平行線

書きかけの手紙
落ちた雛鳥
新しい美術館
窓辺のケーキ
顔のない白い手
行方が知れない傑作

許されたい
罰されたい
欲望が行き交う
僕を素通りして
器用になれない
なりたくない

本当はそうじゃない
違うと言い張って
まだ変わらないことの
言い訳にしている
一度きりの蛹は
もう夢を見終えたのに

緩やかな坂道
体温みたいなぬるい風
まどろっこしさの贅沢に気づかない
世界はそうであって欲しい
まだ必要だからここにいる
僕もそうであって欲しい

2+

no.273

わかってもらえなくても
わかりたいと思う
でもきみに言わせたら
そんな不自然なことは不健康
なのだそうだ

不可能じゃなくて不健康ってさ
どうなの?

ぼくはレモン味の
乳酸菌飲料を
定価の半額で買ってきて
きみと飲んだりするんだけど

それでも超えられない壁があるんだよ
だんだん楽しそうになるきみ

正しいか正しくないか
叶うか叶わないか
そういうのってあんまり関係ないんだ

広げた傘の内側から
くす玉の中味がひらひら降って
本当にとんでもない悪戯だと思わない?

いつか好きじゃなくなっても
思い出はいっぱいだね

その日のために貯めてるんじゃないかって
考え出すと頭が痛くなるくらい

でもね
いつかわからなくなったらその時は
もうわからないまんまでいいや
全部欲しいなんて二度と言わないや

1+

no.272

傷ついたかも知れない
数えたら同じだけの針を飲む
どこかに刺さって
機能停止してしまいそうでも

誰も気づいてくれないから
どうするわけにもいかなかった
約束をどうしたかも覚えていない
だからこれは自分だけのゲーム

あなたの涙はほんとうは
僕のために流されるべきではない
それはもっと優しい
誰かの犠牲となった者のために

太陽も月も照らしてはいけないんだ
知らない子が裸で死んでいても
誰も見ていないなら素通りできてしまう
僕ってそういうやつなんだ

憐れむふりならできないことはない
それを回避するためにどうしたらいいか
ありったけの知恵を絞って策を出すことも
だけど回答として求められた時だけ

僕はここにいてはいけないのかもね
胡乱なひとりごとに返信はこない
そのことがかろうじて僕をここにとどめる
もしかしたらって期待とかしてんだ

例外はない
早朝に見る昔の映像
冷蔵庫に隠した水晶体
耳の奥で鳴ってる届かない足音

暗い道で振り返る時に
雑踏の中でふと呼ばれた気がした時に
あなただって悪かったんじゃないか
僕は何度も逃げ損ねてそう言い訳をしている

2+

no.271

苺をほおぼっていた
飲み込むことはせず
吐き出していた
それを繰り返していた

あなたはぼくを記憶する
唯一の生き物だから
知らずどこかへ行ったり
消えてなくなったり
しないで欲しいんだ

想いを伝えるには不器用で
喋らない口実が必要だった
だから苺をほおぼっていた
食べたくもないから
飲み下したりもしないけど

たとえばそれは爆弾で
たとえばそれは卵で
たとえばそれはあなた、
いなくならないはずの
あなただったとしても。

苺をほおぼっていた
それはアリバイになる
ただ苺をほおぼっていた
あなたより後は嫌だよ

2+

no.270

時計の針は同じ場所を滑るから
ぼくたち勘違いをしているよ
ひとつの円の上だからって
それはもはや繰り返しじゃない

きみが真似するぼくの方言
それを耳にした時にああ孤独と思った
かわいそうと言われるほどに
しあわせ者と言われるほどに

何を言われても
どんな目で見られても
きみを選べるぼくでいたかったな
決意は儚い

溶けるとわかって手を伸ばした
夏の氷のよう
早く息の根を止めてあげないと
それはぼくに対しても言えることだった

知らずに済まされる幼さなら良かった
誰か傷つけても平気なら良かった
願うことも欲しがることも疲れる
輝きは無数の粒子だから

名前がわからない
いつか描いた絵の中にいるのに
意図が見えなくなったんだ
製作者は確かにぼくであるのに

1+

【雑記】理想と現実

さっきあげた小説は、スマホのメモに眠ってた書きかけを完成させたやつ。
メモで書いてスマホからもタブレットからもパソコンからもアップロードできる。便利な時代よの。

執筆環境(理想)
・淡色を基調とした広い部屋
・座り心地のいい椅子
・飲みたいものが好きなだけ飲める
・窓からは自然の緑が見えている

執筆環境(現実)
・ベッドの上で寝ころびながら
・扇風機の風
・窓の外を車が走っている
・飲み物は麦茶かカフェオレ

理想があるうちが花かも知れない。
そして環境はあんまり関係ないかも知れない。
むしろ満たされていないほうが良いのかも知れない、人間、欲は尽きないけれど、不足していたほうが、夢を見られる。
と、合理化をする。

質より量。

他人の書いたものにあれこれ言うより、一行でも自分で書いたほうが良い。私はその人を偉いと言う。勉強でもそうだ。一分でも手を動かしたほうが偉い。この勉強したい、あの資格とって、ああしてこうしてって言ってるよりも。何事もそうで、これは自分への戒めでもある。もちろん計画を立てることは大切だが動き出すことはもっと大事で、計画立てて満足したり計画という名の後回し精神には注意をしたいところ。だけどそんな場合でもやっぱり「計画して満足したならその程度」なんだろうな。やりたいことって「やりたい」って考える前にやってたりするし、そのエネルギーや瞬発力みたいなのはすごいと思う。すぐ行動にうつすひとってすごいな。心がけてはいるけど、それって心がけるようなことかな?と思ったりして一進一退。
まあ、頭の中でこね回してればお金もかからないし場所はとらないしエコだよね!
その層を突き破ってきたものにだけ現実に存在させてあげよう。

3+