no.253

爽やかな色使いの油絵や、書きたいものに気づけない詩人、もうこの世にいないアーティストの作品、それに触れ自分の欲望を見つけた少年。新しいものは死に、古いものから何か生まれる。明日はきっともっといい日だと目を逸らしたい今日、カレンダーを塗りつぶしていく紺碧のフェルトペン、誰か殺してくんないかなあとぼやきながら真反対のことを考える少女の顎にあるほくろ、明後日手術を迎える、老夫婦の繋いだ手、天空、一瞬のマジックアワー、雑多なものであふれたカメラロールにおさめる純真、気づかれない青春、食卓に配布される訃報、間違われたリチウム電池、初めて飲んだ微炭酸、静かになる蝉、燃え上がる線香花火。間に合わない、追いつけない、満たされない、届かない。走り出して、追いかけて、乾きを知って、また手を伸ばす。美しい保証はない、安全な保証も、幸せになる保証もない。同じ場所にずっといられないだけ。おまえは無謀だってきみから笑われるのが好き。仕方ないなと隣にいてくれるきみのことはもっと好き。

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no.252

信じるよりも確かなこと。
手を伸ばせば握り返されたこと。
遊ぶようにさみしくなかったこと。
金物屋で凶器を物色していた放課後。
あの子たちみたいにきれいに翻らなかった制服のプリーツ。
未来なんかどこにもなかった。
赤信号で踏み出した月曜日の夕暮れ。
泣きながらアルバムをめくっていた金曜日の朝。
どんな時も、見えなくてもそこにあることでここまでを生きてこられた。
夜の虹のように。
踏みにじったコラージュ。
笑われた名前。
滅びろって思ってた。
だけど難しいから変えちゃおっか。
って、思ってた。
金物屋の跡地には新しく郵便局ができた。
切手を貼ってあの日に届けよう。
手紙の書き出しはこうだ。
親愛なる十年前の死にぞこないへ。
そんなに悪くないですよ。
破られるかな。
だけど知ってほしい。
踏み出すんだろう、そして死に損なうんだ。
だけどどうせ踏み出すんだろう。
その一歩で行けた場所を捨てて。
だけど死に損なう。
一度も信じられなかった未来からのささやかな贈り物だ。

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no.251

思い出せる日々は
青いクリームソーダの底に沈めて
もう生きていたくなかった
あのよるあのよるあのよるを、沈めて

生き延びた理由はなんでもいい
死ぬのが怖かったから、それだっていい
始まらなかったかも知れない
だけど終わるものもなかった

夢にまで見た屋上は
そこから見える景色は真夏なのに
何故だか静かな雪が降っていて
山みたいだねと懐かしい声がする

腐ることのできなかった三年間
誰も知らないあの人が保健室を抜け出して
お互い手首をとって探し合いをした
他になんにも遊び方を思いつけずに

あの頃は知らなかった
そんな過去があるんだ
あの頃は知らなかった
こんな未来へたどり着くんだ

きみは優しい
ほんとうに、やさしい
ぼくの脈を見つけてくれたあの時から
そこだけはずっと変わらないんだね

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no.250

心のどっかで馬鹿にしてたとこあるよ、絶対。でもそれって実は自分を侵食して来るかも知れないものへの拒絶反応だったり焦らしだったりするので、馬鹿にする反面、ちょっと期待して待ってみてもいいかも知れない。なんなら待つだけじゃなくて一歩でも良いから自分から歩み寄って迎えに行ってもいいかも知れない。そしたらそれはあっけに取られて「お、おう」みたいな反応が期待できるかも知れなくて楽しく優位に立てるかも知れない。僕達私達は未来をコントロールすることはできない。それも含めてまだ実存し得ないものだから。あたりまえに来ると思ってる明日はその確率と同じくらいもしかすると来ないかも知れなくて、明後日もあると思ってる世界、会えると思ってる人、それらも同じ。全部未来のものだから。僕達私達、なんて無数の「都合のいい」期待のもとで生きてるんだろう?じゅうぶんに前向きで呆れるくらい楽観的だから安心して昼寝ぐらい取るといいのだ。おやすみなんか要らない。もう目覚めないかも知れないと心の片隅で思いながらあなただけの思い出で作られた夏の夢を見てください。神様にだって会えるよ。そしたら冗談めかして笑い話にでもしてください。そんなこんなを死ぬまで繰り返すだけです。生きること。

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