no.220

みんなこれをしていたんだ。これを普通にしていたんだ。眠っている間に心臓がどくどく言うのと同じくらい当たり前にしていたんだ。そのたんびに血の気が引くような思いは知らないんだ。これができるなら死んだって構わないというようなおかしな順序を望むことはないんだ。人を傷つけたってそれは誰にもできることなんだ。おしのけたって、ひきずりおろしたって、分け隔てはないんだ。それはただ、できた。だから、していた。寝不足だろうが泣きながらだろうがほとんど心配なくそれはできた。きっと知らないだろう。考えもしないだろう。それができなくて全部捨てたくなる気持ちなんて。笑うだろう、時には励ますだろう。そんなこと気にしていたのか。そんなこと大した問題じゃないさ。そんなこと。そんなこと。そんなこと。そう呼びたかった。だってその通りだから。そんなもの。そう表現したかった。だって僕の目からでさえそうなんだもの。分離して行く気持ち。まるで他人の一部を眺めるような気持ち。それは変わらずそのままだった。だけど間違いなく僕の一部だった。うらやましい。うらやましい。うらやましい。あんまりそれが手に入らないから目を背けることもあった。そのせいで他のものが見えなくなったって構わない、聞こえなくたって構わないよって。時は静かに訪れた。魔法みたいに。ふいに日が差す瞬間みたいに。僕はずっとこれをしたかった。本当に本当に、したかったんだ。

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no.219

君と出会った時ぼくは知らなかったよ。君がぼくの時間や考え方や生き方を動かすことになるなんて。みんな笑うからぼくだって笑いたかった。何でもないさって。だけどそれはどんどん引きつって嘘になった。嘘は凝固して染みになった。それでもみんなは言う。たいしたことないさって。だからぼくはみんなの前ではそういうふりをするようになった。ひとりきりになると必死でかさぶたを剥がそうとして深く傷ついた。いま君はいない。君のことを知らない人はぼくの周りにたくさんいる。君なんていなかったことにしたいぼくはいつか本当に忘れてゆくのかも知れない。だけどぼくが何かするたびに君は関係しているだろう。たとえば何か食べる時に。人混みの中で誰かに呼ばれた気がしてふと立ち止まった時に。重大な決断をする時に。ちいさな約束を結ぶ時に。ぼくは自分ではどうにもできない気配を感じ、だけどそれを懐かしく思い、苦笑さえ浮かべるだろう。誰も知らない。誰にも言わない。自分の秘密。結晶みたいに体の中で大きくなる。どんどん大きくなって音を立てて割れたら、その時は。その時はまたその時だ。

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no.218

信じているから殺させて
新しくなるって
僕に初めて触れた波みたいに
また昇る太陽が世界を塗り替える

過ぎていったものと目が合う
巻き取られる青の中
正しくない呼吸法
君は何も好きにならない

人間はあたたかかった
球体は大きく平らだった
ひとりでいると
思い出を静かに手放しながら

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