2016年 9月 の投稿一覧

no.139

横切るものを見ていた
誤る手元
意味のないものへの憧憬
飛ばない鳥が死なない理由

投函したのは青いポスト
この世のものではないと
誰に言えるだろう
誰が信じるだろう

確率の問題のようで
信じかたの違い
比較の話のようで
塩梅が課題

とまらない歩行
やまない談話
たどり着かない庭
終わりのない時間

何も席を立たない
どの場所も妥当ではない
許されることを待つ限り
空に星なんか見えない

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no.138

習慣と飢え。あるいは、習慣「もしくは」飢え。答えはきっとそれでしょう。浮かぶままに述べたことがたまには救いにだってなる。人の世界は変えられない。はためくカーテンの裾に隠れて。言って。もう一度何も知らなかった頃に行けるよ。って。胸の前で閉じていた蕾。見るからにやわらかな薄紅色の蕾。言えない言葉は全部そこに押し込んだ。花弁は今にも張り裂けそうだった。拷問みたいに。同じことばかり繰り返していることは分かっている。きみのその顔を見たいだけだよ。

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no.137

やましい影
黒の猫がしのび足
あざだらけの体
何かの目印なんだ
永遠のきらめきが
一瞬に値する
ぼくは何も知らない
いまだ何も持たない
親の声
友達の眼差し
冷たい手首
いつまでも離せないのは
流れる川
咲き遅れた花
停滞した感情
やがて来る濁流
穏やかに笑いたい
滑らかに愛したい
知らずに惹かれあい
妬まれながら好き合いたい
そんなことを
そんなことを
考えなかった日は一日もない
夢にまで息遣いが届く

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no.136

ありがとう
きみの眠りのために月は沈む
焼けた空が傷を癒す間
優しさが形を変えていく

気づいていないふり
やめようかな
やめてしまおうかな
駆け引きだけが残っている

悲しませることは簡単だ
自分に嘘をつけばいい
起こらない事件のため
流されない血のため

いつかみんなに見放される
それまではまだ
涙は輝くものだと言って
それまでは、まだ

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no.135

天と地の結び目がない地点。産まれてすぐに新しく消える。知らない世界でまた産まれる。点滅の奇跡。言葉を取り上げられて途方にくれるかも知れないというのは杞憂だった。ぼくたちの伝達手段の総量は変わらない。いつか飲むはずの瓶の中身を絵の具に混ぜてわからなくした。得体の知れない存在にそれを手渡して絵を描かせた。崩壊する起承転結。迷子の文脈。語彙は舞って剥き出しの肌に染み渡る。ゆきとどいてゆく、かなたの方へ。誰もたどり着かないところへ。ゆきとどいてゆく。誰かの信じる永遠の方角へ。馳せる思いだけが触れられる場所へ。

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【小説】凸凹

キリッとした強面さん。

いつか誰かがそう評した。第一印象。律儀なやつ。小さな頃から外見がいかつくて、堅気じゃない家の子どもなんだとか、5歳まで森で狼に育てられたとか、いろんなところで好き勝手に噂された。バラエティ豊かに。当の本人は余計な方向にまで気を回す性分で、だからって演じてまで自分を押し殺す必要なんかあった?

秘密の趣味は秘匿性を増し、小中高と成長。大学生になって初めて飲んだ酒の席で、苦手なアルコールをしこたま飲み、ついに本来の性癖を暴露。その場に居合わせた僕に目をつけられて今は従僕。

神さまはたまに間違えるね。容れ物と中身を。それは悲劇になったり喜劇になったりする。

カンにとって僕が前者で、僕にとってのカンが後者。

生まれも育ちも同じ地区、だけどほとんど接触のなかった僕たちが、突然親密になったこと、最初のうちこそ興味津々と見られたけれど、今じゃ誰もが慣れてしまった。

「チョコレートサンデー」。
眉尻が跳ねる。
「トッピングにアーモンドスライスとうさちゃんプレートで」。
楽しいな。
「…それは、厳しい」。
可愛いな。
「なんで?チョコレートサンデーを食べる僕を見られるのに?ほっぺたにソースをつけて?うさちゃんプレートをかじる僕を?」。
跳ねた眉尻がだんだん下がってくる。
嬉しいな。
愛しいな。
萌えで死んじゃえばいいのに。
「至近距離で?上目遣いで?一心不乱に?」。
そう、今まで我慢してきたものの中で、溺れて死んじゃえばいいんだよ、カンちゃん。
「うん、食べたいから。だめ?嫌い?」。
「ふむ、仕方ないな。買ってくる」。
「カンちゃん愛してる!」。
「黙って待っていろ」。
「行ってらっしゃい」。
手を振って見送る。
カウンターに向かう後姿。
カンが歩くと自然と道が開ける。
小銭を取り出すために少し丸まる背中。1円単位まで出してるんだろう。
道行く人ひとりひとりに説いて聞かせたい。幸せとは何かを。疎ましそうに、罵られながら。
符号を外して同じ数字になる。難しいことじゃなかった。手の内を明かし合えば。
凶暴な僕、虐げられたい君、あかるい青春、これがただしい3度目のデート。

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no.134

手段を選ばないくらい強くなりたい。そう思うけど手が汚れたらちゃんと眠れない。もしもインソムニアが形あるぬいぐるみだったら、僕を眠らせてくれなくてもしっかり抱いて夜を過ごすのに。原因は他のところにあるって、どうしてそれを認めないんだって、答えは簡単に出せたはず。原因を突き止めない間は、何も改善しないあいだは、きみは僕から目が離せないだろう。まるで自分ばかり正しいみたいに話すね。せっせと繕ってくれて、かわいいひとだな。僕の所作の中でとりわけ食事の作法には眉をひそめるね。戒めにもならない。目の前に並んだ食材すべてに名前をつけるんだ。それから切って口に運ぶ。たまには砕いて、潰して、刻んで、捻って。だから時間がかかるんだ。利き手の握力、よく切れるナイフと刺し易いフォークだって欠かせない。水槽越しの光が銀色を跳ね返す。壁一面の聖書。魚にはわからない言葉。どちらが狂ってるか。決まってる。そんな質問をしてくるやつのほうさ。

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