2016年 4月 の投稿一覧

no.85

ほらこんなに安く手に入る
代わりのあるものだった
分解して転がせば
もう元どおりにならないけれど

代替性のあることが
希望だって言いたい
ほんとうは
そうじゃなくても
そんなんじゃ絶対になくても

名前を知ることも
視線を交わすことも
諍いになることも
手を繋ぐこともない

太陽が隠れていても
深い森や昏い海の底でも
みつからない雑踏の只中でも

浴び続けた活字が
ひとをずっと沈黙させたの
まぎれこもうとして失敗して
余計に異物であることを知るの

今日笑うたび
明日に持ち越された償いを考えた
許される時には罪名を
その罪名をつねに思い出そうとした

積み上げられたもののなかに
探しているものを求めても
まだ埋まらない空虚を確認するだけだった
小石のひとつもない夜道

まだ知らない
落としもののどこにもないことが
どんな意味をもつかは
まだ誰も知らない、いらない

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no.84

まだ渇いているって言う
何一つないくせに
足りないものなんか何ひとつ
ありはしないくせに

困らせることが好き
そう思っている自分を続けたいだけ
何もわからないころではない
すべてを敏感に感じ取っているけれど

通り過ぎる子どもの手が
やわらかな花をむしって歩く
いま自分の手を引いているひとが
薄暗い部屋でどうなるか
あなただけは本当に知っているんだ

飢えた目だけ通して
きみを見ていたい
唯一からはずれないで
ぼくの信じるものでいてほしい

西から東にかけて乳白色がのびる
誰かにとっては残酷な一日の終わりに
嘆きを許さない肯定がある
絶望を見放す広さが繋がっている

見渡す限り無関係な天空の下
数え方がきっかけで
いつまでももつれ合うぼくたち

満たされない目だけを通して
ふたりだけを置いてきてほしい

ぼくにはつくれなかった世界に
きみだけでは成り立たなかった夜に
神さまを呼べなかった日々に
微笑みかたを間違えた最初のころに

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no.83

まだ愛着に満たない
机上のスピカ
止まないでいいのはただ
殻を叩く音だけ

きれいないちばん
いじらしい籠城にて散る食べかす
色彩は頬に宿る
花をのせるにこそ相応しい頬に

記憶の渦にのみこまれたところで
めまいしているのはもったいないな
乾ききるまで見開いてみつめてみて
見あたらないものをさがしてみて

懐かしい、
年老いたあなたがそう呟くまで
たとえ呟かないのだとしても
ぼくはずっとここにあったよ

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no.82

いちどだけさわって
忘れさせないまま
ぼくだけが消えたい
ひとりで死ぬんじゃなくて

ほんとうの夜を知っていた
月も星もないまっくらのこと
怖いことなんかひとつもなくて
どこよりも優しいもののこと

パステルカラーの水玉が
空にいくつも浮かんでた
ガラスのコップごしに
あの瞬間をいまも思い出す

なんども何度も
繰り返しくりかえし
始めては終わらせて
終わるたびにまた始めて

嫌いなままでよかったのに
いつかいなくなるならって
行き場のない声に埋もれてやがて
ぼくを後追いするきみを見ていたい

いつでも単純だった
たったひとつだった
目を閉じればいいんだった
きみの指先がいま届こうとする

血も流せないで
涙もぬぐえないで
引っ搔き方も知らないで
ぼくしか知らないきみの手がいま

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no.81

読み終えたページが、ふぞろいの足跡を覆うように降っていく。
強くなるためにかけがえのないものを壊してきたこと。
弱さ隠すために寄り添えるものを切り捨ててきたこと。
傷につかれず傷をつけずに歩いてみたくてそれは不自由だったこと。
素直になることは隙を見せることだと思い込もうとしていて本当はただ怖いだけだったこと。
あたりがどんどん定型化されていくかに見えたので何もかも平気を装ったこと。
離れたくないことを気取られたくなくて嫌いな理由を並べ立てたこと。
そしてそれを誰にも言わないで新しいノートに書きつけておいたこと。
クラスのみんながかわいがっていた教室のハムスターを、てのひらからわざと落下させて死なせたのはぼくだったこと。
自分の手で殺せるものだけをかわいいと思えていたあの頃もいまもさほど変わらないこと。
ずっと抽斗に眠ってた、透明の定規をかざしたら、動脈に垂直の影が落ちた。
しずかな夜にこれまでの失態を思い出してすべてに責められて消えたくなること。
死にたいんじゃない。消えたいんだ。
そんな話をしたとしても、猫は笑うね。
だんだん騒がしくなる夜。
説明しなければ伝わらないような言葉なら、秘めておいたほうがいいんじゃないか。
そう思って不自然に黙ったままでいることも。
確率や可能性ではかれるものや、はかろうとすることを軽蔑することも。
生まれ変わったことにして踏み出したとしても。
かかとの靴擦れに気づいたふりをして立ち止まることも。
ふいに訪れた事件に運命を感じて、すぐ有頂天になってしまうことも。

夜に沈める。

そうすると次の朝が頭を擡げる。

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no.80

真っ青な部屋の底から見上げたいつかの曇天。どこにも明らかにされなかった筆跡は暗号化されて眠らされた。指に絡まった蔦をたどっていけばあたらしい星座に辿り着く。そこからきみの輪郭ができあがる。まだこの世にいないきみのあたらしい幸福。あたらしい絶望。あたらしい地獄。あたらしい天国。まだ誰の名前もなぞったことのない声も。まだ誰の視界にうつったことのない姿も。まだなにものにも例えられない存在のすべてが。今までにない力でぼくを肯定していく。物語にならなくていい。ひとつのフレーズ。ひとつのシーン。わずかな一瞬を繰り返しなぞっていく。あたらしい細胞。あたらしいひと。早く凡庸に組み込まれて輝きを失ってゆけ。そしたらぼくにも触れることができて、そしたらきみは触れられる存在。あたらしいあたりまえで何かを歌って。ひとりぼっち、このかけがえのない自由からおたがいをほどいて。刹那ばかりを終わるまで続けて。おやすみもおはようも要らないこの部屋で。

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no.79

光を遠ざけないよう
いっそ肌に縫い付けて
闇に埋もれないよう
いっそ瞳に落とし込み

裸足から滴らせ歩く
遂げられなかった復讐の蕾
守らなかった約束の棘
荊は言葉がないから傷つける

爪の無い親指で穿った曲面
次は何を嵌めようか
そしたら何になれるかな
今度は何かになれるかな

そんなふたりのひみつの
そんな他愛も無いしわざ
わざわざ声に出してさ
しょうもないって言ってさ

星みたいに笑って
ぼくの青の一等星
笑ってリゲル
誰も幸せにできなくていいから

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