2016年 3月 の投稿一覧

no.78

夜は醜悪を匿う。そのせいで浮き彫りにもする。見えない何かを。見えない基準で。小さかったころになりたかったもの。目指しもせず夢のまま抱き続けた夢のまた夢。手繰り寄せた朝陽に絡みついてそのまま毛布に溶けてきた意地悪。星を。拒んだひとから真っ先に星になっていった。意識しなけりゃ嘘ひとつつけないのって。無頓着がよかったみたいに。名前を明かしもしない神様にいつまでも焦がれて、崇められたい罪悪をいつまでも受け入れられないで。お気に入りの秘密をこっそり封じた蕾が、誰も産まれない夜に花開けばいいのに。何も救わなかった僕の正義が、君にだけはいつかちゃんと優しければいいのに。

0

no.77

あなたが憎くて
おまえさえいなければ薔薇色だったと
呪って歪んで虐げて
それこそを諸悪の根源とみなし
金輪際あらわれてくれるなと
心底思いながらそれでも

それでも殺さなかったものが
いつかあなたを救うだろう

強い眼差しの残像で
優しさを含まない裏返しで
罵りながら嗚咽していたこと
知っていたのは
知っているのは
後にも先にもそれだけだから

花の名前を教えるといい
それはいつかあなたのもとを去るが
花は毎年朽ちるだろう
そして次にはまた咲くだろう

軽率に振る舞える贅沢を
邪険に扱える幸福を
僕たちは繰り返し確かめている
涎にまみれて反芻している
どんな不条理だっていい
忘れないように
消えないように痕跡となるなら

遠ざかる笑い声
君を
君と僕を蹴って不自由にした
あれも今は善を囁く
無垢な瞳にそれは吸い込まれる

あたかも真理として
あたかも絶対として
あたかも愛情として
あたかも崇高として

苦痛や絶望と引き換えに
黒い目は諸々を飲み込んでゆく
新しい土地へ旅立つために
古く新しい季節を回すために

誰がいなくても
誰がきかなくても
見えも触れもできなくたって

僕が空に歌っている
この足で立って
この肺で吸って
この鼓動に合わせて
六本指の軽快な手拍子
君は僕を本当に好きだね。

0

no.76

乾いた手がまた乾く
時間がたりないと言って
濡れた指がまた濡れる
時間があまりすぎると言って

あっけなく飛び立つんだね
いろんな理由で
さかさまになっていくんだね
ないものを反芻しながら

満ちるということ
それを知ったばっかりに
もう十分と言えずに
呪う相手も持たずに

めぐる季節に愛想を尽かされ
風のなかにいるみたい
海のなかにいるみたい
本当はずっと群衆のなかで思ってた

普通は怖い
それだけは言えずに
普通は悲しい
それだけが言えずに

交錯する
僕と君の不条理な時差
三角定規の鋭利な辺で
何と何を残して奪って目配せしよう

かみさまと上履き
カスタードと円周率
一年前に見失った新しいルーペ
夕焼けの赤が飲み込んだ無名の無数の擦過傷

0

no.75

誰も相手にしないで
雪の絵を描いている
真っ黒な瞳で
ひとりできみは

新しいまま放置された車両の中
忌避する言葉を選んで
海にむかって放って
何度も何度も放って

どんなに関係がなくても
関係性を付与されること
その不幸から逃れるために
限りある時間を損なわないこと

そんなことかもしれない
ぼくが約束しなければならないのは
雪の絵を前に
投影を続けたきみの夢の手前で

引きずり出される夜明け
意味を与えるための
押し付けの希望
ありがとうと笑って生きる

ぼくの描いた世界で
きみは息をひそめて
きみの描いた世界で
ぼくはきみを描いている

十年
百年
一千年

永遠を求めるなら
永遠を望むなら
それは蓄積の結果でないと
分かってしまったほうがいい

それは刻まれた一瞬の中に
それは頼りなく舞い降りた雪の欠片に
それは海底を揺蕩うひとつの粒子に
それは明日に破られる絵の中に宿った

きみもぼくも間違っている
正しく謙虚に間違っている
清く美しく未来のために間違っている
たった今誰かの罵詈雑言のために間違っている

0

no.74

掌に包んだもの
指の腹で撫でた記憶
どんな
どんな形でもいいから

壊したいと思う
僕だけのせいで
それが壊れたらいいと思う
一瞬にして永遠に

名づけられる間もなく
認められる隙もなく
眼差しと眼差しの溝で
予感の組織に落ちぶれて

輝かないように
息を潜めておいて
見つからないように
生き延びておいて

あとすこし
ほんのすこし
それで
それから

真犯人にして
僕だけを
たったひとりの
最初で最後の

優しい優しい三面記事
忘れ去られる幸福への淡い期待
儀式と呼んだら騙されるかな
人間はいつもかたまっていて可愛いね

0

no.73

みつけるために失おう
気づくために忘れよう
帰るために迷子になろう
ほどくために絡ませよう
仲直りのために喧嘩しよう
愛のために戦争しよう
健やかのために不摂生しよう
きみがためにぼくになろう
朝のために夜を呼ぼう
右向くために左に寄ろう
まんなかを作るためはしっこへいこう
歌うために口を閉じよう
夢見るために目をつむろう
思い出すために今になろう
光のために影だって食べよう
(シューの内部は臓器でいっぱい)

0

no.72

この声は染みこんでもいい
この色は染めてきてもいい
目を閉じて耳をふさいで
この時のために無知で来たよ

きみが何かを語るとき
ぼくが何かを捨てるとき
ふたりは昨日朝方の肉片
魂は今日もレールに残っている

電柱に落書きされた神様が
真っ暗な瞳で真相を見ていた
だけど口は無いから告発しなかった
その瞬間切符越しに傷にふれた

行き先は霞んで消えそう
ぼくたちをどこへも連れて行かず
どこからも旅立たせることのなかった
冷たく硬い切符越しに初めてふれた

おはようの終わりに
はじめましての左で
さよならの続きとして
わざと違えたスペルの暗号

行き先を読み上げると切符は溶けて消えた
動いているものは流れ出した血ばかりの朝だ

0