no.54

遮光性の高い夜
新しい命と旧い命が
密約を交わしている
星の無数に滴る夜

僕はもう息をしない
隣で君は深呼吸をする
剥がれ堆積した夜の底で
最初の

それは静かに向かい合い
百億の答えに飽かず
また問いを発する
どんな愛が君を殺せる?

稚拙な光で君が応えるとき
孤独な暗黒は初めて憩うだろう
そして乞うだろう

きみは、
愛になど殺されないで
ぼくを、
夜を忘れないで

星は滴り続ける
これから幾度も迎えるであろう
平凡な真昼にも
狂うことなく精確にたとえ君が、
君がこの愛を見つけてしまっても

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no.53

変われないものは変われない。破れない殻は破れない。私達は嘘をつかずに、大切なものを犠牲にせずに、それでもいろんな景色を見ていたいね。過去を呪わず、未来に託し過ぎず、今を今と呼ぶこともなく、小腹を満たすために口元へ運んだおやつにほんのちょっと罪悪感を覚えながら、でも、咀嚼して嚥下したあとはもう、週末見に行く映画のタイトルを決めていたいね。赤い手袋に白い雪が積もるってロマンスがなくても。白い雪のなかに赤い手袋を落とすってハプニングがなくても。大きな事件に囲まれながら小さなことを騒ぎ立てて大笑い、難解に考えすぎた世の中の仕組みが実はあっけないほどシンプルで幼稚であったことに気づいて脱力し、血を流すひとも喉を乾かすひともみんな一律に比較をせず、足りないものを足りないんだと、叶わない願いだって、あってしかるべきであって、むしろそれがために努力が輝くんだと、途方も根拠もなく信じていたいね。裏切られてもあくびは出るよ。電池切れのリモコン。わざわざ立ち上がって電源を入り切りする。平均寿命までの年月を秒で換算する。そのために初めて話しかけたSiriが優しかったり。広げた世界地図の上を空想で旅する、だけどイメージが湧かなくて適当なことを言い合う。神様を信じるひとも子供を無垢と信じるひとも、同じくらい平等に騙されているし幸せなんだ。あなたがどんな不幸を知っているっていうの。

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【小説】ライアー&ライアー ~風邪引き編~

ロイドが風邪をひいた。
あのロイドが?そんな馬鹿な?
と誰だって思うだろうしぼくも確かにそう思ったし、まあ嘘だろうな。と思ったのでそのまま放置して書斎で読書に没頭しているとドアをひっかく嫌な音がしたからとりあえず声はかけてみる。

なんだ、うるさい。
すみません、ご主人。貴重なお時間を邪魔してしまいまして。
わかってるならそれなりの理由があるんだろうな。
はい。
言ってみろ。
……、を。
きこえない。
どうか、添い寝を。

かるく一時間は無視した。
喉が渇いてきたので紅茶でも淹れようと部屋を出ると、すぐのところにロイドが立っていた。
驚いたぼくは罵声を浴びせようとして開きかけた口を閉じた。
確かにロイドは風邪をひいているように見えた。
上気した頬。
潤んだ目。
心なしかいつもよりしおらしい。

まさか本当に風邪をひいたのか。
はい。
嘘だろう。
いいえ。今までになく体が火照っています。
ほんとだ。おまえ、これまで病気にかかったことなんかないじゃないか。なに人間みたいなことやってんだよ。気持ち悪いよ。
気持ち悪いは言い過ぎかと存じます。
言われ慣れてんだろ。
遺憾ながら。
とりあえずそこどいてくれないか。ぼくは喉が渇いた。
添い寝を所望いたします。
知らん。
そうおっしゃらず。
何されるか分かったもんじゃない。
添い寝だけです。
ぼくまで風邪をひいたらどうするんだ。
そうしたら御礼に私が添い寝をしてさしあげますから。
そうしたら今度はおまえがまた風邪をひいて、エンドレスになるじゃないか。永遠のループには巻き込まれたくない。
お馬鹿ですねえ。
なんだと?
いつまでもループするわけないじゃないですか。
わかんねえよ、そんなの。おまえの口車かもしれないし。
試してみたらいいではないですか。
試す。それもそうか。
ええ、では早速添い寝を。
その前に紅茶。
寝室で待っておりますね。うふふ。

やたらうきうきした様子のロイドを見送り、今のやりとりの中に何かしら策略が企図された気配を感じたけれど、紅茶飲んだら忘れた。けろっと。

約束通りロイドの寝室へ行ってみると壁一面にぼくの似顔絵が貼ってあってたじろぐ。今に始まったことではないがなかなか慣れない。

面白いか?毎日おんなじ顔ばっか見ていて。
面白くはありませんよ。
だったら。
ただただ愛しいです。
熱は?
少し下がりました。だけど添い寝を所望します。
わかった、わかった。先にベッドに入ってろ。
わくわく。
口に出てる。顔にも。
出しました。
自覚あんのかよ。
あります。
それにしてもロイドが風邪ひくなんてな。おまえ実は少しずつ人間になってるんじゃないのかな。
まさか。ただのバグでしょう。
人間で言うところの、病気みたいなものか?
ええ。
そうか。おまえにもいつか寿命がくるのかな。
さあれば大変嬉しゅうございますね。
嬉しいか?
ええ。もう、思い出さなくて済みますから。
何をだ?
ずっと、記憶しているものを。

ぼくはロイドの横顔を見る。見つめる。瞼を開いたロイドと目が合う。
端整に端整に作られたロイドだから、非の打ち所なんか無い。完全なシンメトリー。それが生身で無いことの証明。唯一の。だけど。
ぼくはふと思う。
(ぼくがそう、信じているだけでは?)
疑惑は次第に膨らみ始める。
止めないでいると勝手に破裂する。
風船とおんなじ。風船とおんなじなんだ。一度破裂した後は、二度と膨らまない。

あなたより先にはいなくなりませんよ。
そんな心配してたわけじゃねえ。
ほら、さみしそうな顔。
都合よく解釈すんな。眠いんだよ。
なんと無防備な。この私に私の理性と対決させるおつもりですか?
何言ってるのかさっぱりわかんねえよ。寝ろよ。風邪ひき。
寝ます。ご主人が寝たら。
なんだよそれ。
ご主人より先に寝るようでは、ふがいなさが恥ずかしゅうございますから。
そういえばロイドの寝顔見たことないな。よし、先に寝ろ。
いえいえ。ご主人こそ、お先に。
今日こそ寝顔暴いてやる。ロイド、寝ろ。
寝ません。ご主人こそ寝てください。
寝ろ。
寝てください。
寝ろ。
寝てください。
寝ろ。
寝てください。

そんなやりとりの後、先に寝たのはどちらだったか。
確かめていないということはきっと、ぼくのほうだったんだろう。
昨夜も遅くまで読書していたせいだ。

ぼくはうとうとと眠りの海に沈んでいく。
光が消えて、ロイドの鼓動が聞こえた気がした。
そんなもの、有るはずはないのに。

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