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no.8

午後六時の黄金色
多肉植物の影がのびる

不揃いな前髪の
まぶしそうに僕を見ている子ども

修正済みの標識が
明日のありかをおしえる

盗まれなかった
攫われなかった

危険をおかして
奪われることの歓び

それがないならもう
見る夢がないよ

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no.7

比喩の魔法は消えて
柔らかな皮膚は消えて
魂が転がり落ちる
先の見えない坂道を
おそろしく長く
見通しの悪い坂道を
安寧は停滞と等しいこと
美醜は問題でなかったこと
輝けないからくすぶること
甘えだと呼ばれたくない
速度を増して光になる
剥き出しの敵意と自我で
もう誰も振り向けない
ぼくは遍く満ちている
きみの読みかけの本のなか
あなたが切りつけた刃物のほうに

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no.6

好きなもの同士がつながる
どうしてもそれを祝福できない
やさしくなりたい

雪につけた足跡は春になって洗い流せるね
さらけ出していいのは本心がきれいな場合に限るだろう
目から舌から暗雲が零れだす

ぼくの庭園には霊廟が並ぶ
色とりどりの虫や植物にも隠し切れない
そもそも彼らは無意識なんだ

やさしくなんかならない
なれない
そんなものを願ったり祈ったり
しているあいだは

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no.5

消える幻に見慣れない僕の背中を見た
遠ざかりながら近づいてくる季節
青と白の曲線を境界線と呼んだ十四歳
死ねないものが笑い世界ははじけ続けた

壊したいのでなくて確かめたかっただけだと
それが傲慢だと分かったうえで分かってもらおうと
まっすぐな道を斜めに見据えた
矛盾を内包して音は水面に反射し続けた

どこかで何かが終わったりはしなかった
いつか見えなくなって抜け出しただけ
大量の流血に見立てた絵の具は赤色ではなくて
雲の無い青空を贅沢に照らし続けた

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no.4

ちっぽけな嘘だった
暗号じがけの悪戯だった
謎はあまりに簡単で
目配せしないでおくほうが不自然だった

それからそれから
時と雲は夥しく流れ何度目かの花が咲き
あれからあれから
繰り返しを見せつけられて変化は起こった

拒まない光景はぼくを追いやり
有り余るやさしさでもって最果てに霊廟を築いた

手脚を損ないぼくはうちやられた
希望が絶滅して答えは持ち出せないまま
故意に時の数え方を忘れても
空隙を埋める補充は与えられないまま

転げる涙は透明できっと価値がなく
乾いた旅人の手を濡らしてもまだ
終わりには遠いと頑なに信じさせる

ぼくは気づいている
殺したのは終わり
終わりをぼくは殺したんだ

二度と起きることはない
緑のやわらかな世界のうえで
光と不死に蹂躙されながら
未来の懲罰に酔い痴れて暗号を解読した

(ぼくは
いいえ、
ぼくたちは)。

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no.3

輝くものは残酷だ
視界がちらつく

伝わってしまうことを恐れ
俯いて歩くしかない生き物に
たとえば夜なんかは優しい

世界が仕組んだのではなく
ましてや思惑などなく

この塊が徹底的に無関心とされていること
そのことに安心を覚えるのにちがいない

遠ざかるほど青は澄みながら深く
ときどき銀色にけぶっては
振り返るぼくを柔らかく嘲笑っていた

持ち主のいない死体の
奔放な漂流を羨みながら
なおさら大事そうに抱えながら
前へ進むだけの非力なぼくを

臆病をゆるして
約束はしないよ
かわりに祈っている
光を奪ってそんなにも輝かないで

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no.2

毛皮の魔法使いは言ったんだ
ほんとうの魔法はおまえが使っていると

森の王子様
眠る王子様
百年も夢を見ている
お姫様を助け出す夢を

いばらに覆われた高い壁
いつまでも眠るからいつまでも死ねない王子様

魔法に魔法をかけて
いつまでも閉じ込めておけたらなあ

鏡をのぞいたらわかってしまう
むこうに立っているのは
あなたが願ったぼくという魔法使い

おやすみ王子様
おやすみ森
おやすみ魔法
おやすみ月と太陽

おやすみおやすみ、
みんなおやすみあともう百年

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no.1

好きになろう好きになろうと努力して
ますます僕を嫌いなきみを好き

いじらしくて拙い
状況としてかなりまずいよ
それは

どんなに庇って歩いても
靴は雨に濡らされる
濡らされまい濡らされまいとするから

僕が雨だ
きみは勝てない

雲の上で星座から放たれた光がわだかまる
届く場所へ届かないで
欲しいとも欲しくないとも感じさせないで

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