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no.39

暗闇より深い
濁りのない透明のなかで
終わりより唐突な
途方もない始まりのときに

ぼくが変わって違うものになったら
ぼくは捨てられると知ると思ったんだ

記憶の再生は追いつかない
妄想でさみしく補填する
この星のどこかで救われなかった
ぼくはまだ不束に抱えている

捨てるべきだ
握るために
手放すべきだ
掴むために

そのすべて吹っ切って
そのすべて貫いて
そのすべて打ち砕いて
そのすべてに告ぐ

きみは誰だ
おまえは僕だ
僕はあなただ
あなたは僕たちだ

逃げ切れなった
逃げなかった
変われなかった
裏切らなかった
後付けの約束
退廃した真心

生まれ変わらない僕を
まだ知らない
あなたにずっと
そそぐためだけに巻き戻された歌

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no.38

きみはぼくなどに侮られていてはいけない
大切なことは先頭に持ってこないといけない
策略に長けたものに添削をさせてはいけない
誰かの価値観に引っ張られてはいけない
不器用を誇ってはいけない
傷つくことを恐れてはいけない
という言葉に怯んではいけない
傷つくことを恐れてはいけない
という言葉の正しさにだけは傷つく必要はない
彼らはきみを支えてくれはしない
すべてを否定した後になお残るものを数える
きみは知るだろう
必ず知るだろう

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no.37

陳列された優しさを選び損ねて烙印を押される
誰も愛せない体と頭でいるせいで遠巻きに眺められる
それを素直に表したばかりに人間扱いを止められる
僕が本当に大切にしたかったものは君にとって単なる食糧で
しかもそれは必ずしも必須ではないということがそもそもの不幸だった
何も言わず従うことの恐ろしさを忘れないでいてよ
頬や二の腕に浮かび上がる波紋はあの日からだ
いつかきっと君は僕を笑うかもしれないと知ったあの時からだ

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no.36

嫌いなものを増やしたくない
好きなものを減らしたくない
閉じこもって狙い撃ち
紐に育った糸を持て余し

血を浴びよう
波に乗るように
白骨に触れよう
朝を迎えるように

皮膚が伝える
ものを信じられるかを
賭けよう
言葉を飲み込んで

たとえば薬指を
賭けよう
文字は使わず
いちばんの沈黙のなかで

伝えたい
それがいけない
分かり合いたい
それを願うと壊れる

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no.36

命にかえてでも守りたいものが
僕を世界から孤立させる
言葉にすれば嘘だらけで
沈黙も味方してくれない
好意は誤解され
捨て身は敗れ去る
波は打ち砕かれながら
何度も寄せる
笑い声を内包する潮騒で
いつだって死に場所を携えて
白骨は八月の雲の色
あいかわらずどこまでも
自分にもあるものだと確認したい
何もないままどこかへ去って行きたい
姿を変えてまた生を始めよう
君の手から放たれたら夢に見た放物線

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no.35

僕は死んだ
あなたの好意のなかで

水滴に滲んだ街灯のオレンジ
ちいさな放射状に看取られ

たくさんの祖先
まだみない子孫

叶わなかった明日
ふいにした今日
懐かしがった昨日

返事をしなかった手紙
壊れたままの換気扇
干しっぱなしの洗濯物

萎んだ蕾
乾いた洗面所
買って履かないスニーカー

遺書もなく
予兆もなく
憶測も許さず

こんなにたくさんを残して
これほどの贅沢のなか
僕は死んだ
孤独なあなたの優しい好意のなか

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no.34

噴水を浴びて笑う子ども
僕にもあったな
誰かの特別だった頃が
緑に覆いきれない灼熱
このまま溶かそうとするんだ
時間を
気持ちを
隣人同士を
信じたって裏切るよ
それは裏切るよ
背中に今も傷がある
僕はそこから
流れ出したものばかりを数えて
あなたはそこから
注ぎこめるものがあることを僕に教える

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no.33

覆った目に
映り続けていたもの
塞いだ耳から
流れ込んでいたもの
鮮やかに優しい景色
ずっとやまない音楽
なだらかな曲線
打ち寄せる潮の香り
ぼくが忘れたくらいで
消えてなくなる魔法じゃない
百年より長い一年
一世紀より長い一秒を
ずっとひとりで生きてきた
きみと共にただ生きるため

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no.32

重ねた言葉を
嘘だねと一蹴される
誰がつきたくてつくもんか
近づこうとして遠ざかっただけ
あなたはいい
ぼくとは分離できる生き物だから
ばらばらで遠ざかってもいい
もっともらしい真実は装飾
知らなければよかった
なんて言うのは
惨めを通り越すほど
足掻いた後でもいい
まっすぐにとか
ひたむきにとか
そんな修飾のいらないくらい
今日と隔たる昨日と明日のはざま

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no.31

きみが、永遠に消えられない存在であることが僕にとって、何より嬉しくて、何より楽しいことなんだよ。天国と地獄と名付けた二匹の野良猫が、大事にしていた蝶々を食べてしまったこと、悪びれずに話しているあいだ、僕はとても幸せだった。産まれてすぐに死ぬみたいに。見慣れたコンビニの看板を、新しい惑星でも見ることができるよ。傷に重力はない、だからこの星から外へ持ち出すことはできない、誰も。傷の深さでしか結ばれ得なかったふたりは、あっというまに他人同士だ。いいね。きみには愛するものがいないことを、笑っていた誰かも、信じるものがないきみのことを、いつまでも見張っていた誰かも、みんな、みんな平等に退屈な星になる。見上げる者のいなくなった地球に、ときどきその影を落とすだけの。そして言ったりするのかな、見上げていた頃に戻りたいって。あんなにむげにしていた隣人はその時、何億光年も遥かなのに。悪じゃなかったさ、街灯に照らされながら、落ちぶれていくことは、ちっとも。それを知って流した涙は、もう、あっというまに塵になるけど。

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