no.246

句読点みたいな呼吸が劇場を白けさせる。誰かの苦しみでしか起き上がれない朝がある。思い出しながら踏みにじって本当は泣いていても。誰かの涙でしか乗り越えられない夜がある。それでもいいんだよと大人はきっと言ってくれる。だけど答え合わせはしたくなくて鍵を付け替える。気まぐれにトライアングルを乱打すると星が落ちる。あの子の夢やあの子の希望が撃ち落とされる。支配される喜びも知らないで自由を語るなと謗られる。じゃあどうしたらいいの。あなたはたぶんそれを知らない。だからぼくも何も訊かない。コミニュケーションは断絶されたまま、永遠にやさしい信頼関係を保っていられる、不純でも、正しくなくても、片道でも、守るに値しなくても、唯一でなくても、ありふれていても、誰も許さなくても、何も救えなくても。壊れずにいられる。

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no.245

あなたは何でも好きになれるから何も幸せにはできないのだ。あなたはとても優しくたくさんのことを間違える。正しいことを行おうとしてたくさんの人を傷つける。わかっている、それでも、何もしないよりはよっぽどいい、傷ついた人もそのことで恨みは言わないだろう。だって救われたのだ。この言葉を使うとあなたはそんな大それたことと笑うんだろうが。報われたのだ。たったひとつで、たった一瞬で。ぼくのように。生きて行くよ、揺らした尾鰭が毒々しい色したネオンに照らされるだけの生き物になっても。死ぬまで殺すことはないよ、そのために長引く時間があるなら。眉をひそめる人の視線の先で、陽の当たらない物陰で、喧騒に絡め取られることのなかったささやきを見つけ出す。今度はぼくが、今度こそあなたの、ありかを探り当てたなら、もう一度息を吹き込んであげる。あふれんばかりの模造品の中でも間違わずに。目をつむっていても、応答がなくても、確信を持って、どんなにきつくっても、やっぱり懐かしいと思ってしまう、その眼差しひとつで。

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no.244

ずいぶん遠回りしたからね
最短で正解を掴みたいと
でたらめを言う
バルコニーの出っ張りで

羽根はないよ
見えたことはないよ
きみは美しいもの
そんなものがなくても

ぼくの体験に
きみが消えるところを目撃する
という項目を増やすことが
きみの目的だったのか?

そうではないはずだ
いや、そうであってもいいんだけど
困りはしないんだけど
嬉しくてまた
生まれてきてしまいそうだよ

何回も何百回も言ったよな
何人も何億人も死んでるんだぞ
感動と違って悲しみは伝染しない
愛がなければ

その上それは名前だけ
実体はない
おまえが信じるかどうかさ
そんな表現を許す唯一のもの
くだらないと笑うんだ

銀河なんか
ミミズクの目の中にある
空の青だってつかまえられる
わけないんだ
度の無い銀縁眼鏡で十分さ
百円の絵の具でだって描けるさ

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no.243

守っていてと言われたのに
青い薬品にすべて
飲み込ませてしまったんだ
記憶にない夏がまたやって来て
一から順番に誘拐する
クライマックスで起こる悲劇を
分かっていながら傍観する
待ち望んでさえいる
水玉は隠蔽する
血だまりを嫉妬を
未来を宇宙を
そこには何もないことを
夢だけが物質だ
新しいことに一つも価値はない
きみが触れたものだけ
きみが目をやったものだけ
何度でも履き違えて良いよ

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no.242

あたらしくなっても、
ふるくなっても、
かがやかなくなっても、
ひとけがなくなっても、
いつだって、いつまでだって、
ここでいい、ここがいい。
ここはきみがいたところ。
いまはもういなくても、
きみとぼくとがいたところ。
たしかに、
いちばんいいころの。
いちばんやさしくて、
いちばんかんたんで、
いちばんなにももたなった、
ふたりどころじゃない、
ひとりだったころの、
ひとつだったときの、
きみとぼくのいたところ。

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no.241

僕の流せなかった血が空を流れている時間、ほとんどみんなが自分の秘密を固めることに夢中になっている。
愛されなかった星は誰かの涙を誘うだろう。
自分が人間だったことを否応なく思い出す。
綺麗なことをしたいわけじゃなくて毎日どこかに傷をつけたかった。
好かれなくて良いから忘れられたくなかった。
そしてそれを君にだけは気取られたくなかったんだ。

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no.240

浸るのが怖い
だったら星を決めてしまえば簡単だ
まやかしだって偽物だって
それを信じてるって公言すれば

理解されなくてい
どんな感情も汚されたくないと
言うのなら生きていけない
そんな極論で貶めることの容易さが
癖になってしまわないうちに

本音はきみになりたい
他でなくきみがいい
初めて思ったことを告白するよ

それは見方によっては希望で
ぼくの死なない理由にもなるだろう

そう信じてるって公言すれば
これがまやかしだって偽物だって
言えることもあるんだろう
救われたりもするんだろう

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no.239

言葉にできないものを全部あいしてるに詰め込んでしまうから苦しくなるんだ、本当は見えているから。すべてを奪って一旦無力にしたらいつかぼくをときめかせたものみたいになるんだ。天国も痛いも通り越えて誰にも会えない場所で新しく王国をつくろう。その時には紫やピンクや水色の粘土であそんだ、楽しかった気持ちのまんまで、ひとつずつ大切に忘れていこう。きみの目の中に懐かしいきらきらが映っても、その正体はもう追わない。嫌いなものも拒まずそばに置いておく。そのまま気づかないふりをする。好きなものだって。他に何も知らない素振りでいれば敵機は落ちないし、花畑の花はひとつも枯れないんだよ。

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no.238

迷宮に住まう怪物の愛よりも
その醜さが深く刻まれていたとは
ほとほと理解ができない
いや、したくない
君はそんなに正しいことを望むか?
そんなにそれは魅力的なことだろうか?
すべては物語を構成するための
いじらしい誇張と虚栄であって
それがなくてはどんな仮定も
一瞬だって生きないのだとしても?
たまには誰かの下手な作りものを
好きになる努力くらいしてみることだ
どこへも声が届かないと嘆く前に
誰にもわかってもらえないと嘯く前に

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no.237

何もないこの世から抜け出す最後の方法。きみの試した最大の失敗作。代替ばかりの部屋であの子はいつまでも入れ替わらなかった、そのせいで老化した、そして誰よりも伝説になった。夢は海の底にあると信じてからっぽな体を持て余す人魚たち。宝石はすべて乱反射の残像。ここにしかないものを探すから檻は狭くなる。たったひとつになれるなんて幻想をやめてしまわない限り。傷ついたくらい、なんだ。傷つけたとしたって、それがどうしたっていうんだ。きみは泡のように無数に撫でていくこと。僕の持て余す体を、あの子の空想の心臓を。

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