no.386

寝ているきみが落下物に潰されて死ぬ
そんな意地悪な夢を見た
謝るつもりで髪の毛を摘んだ
午後のラジオ放送は才能に恵まれている
きみが望めばそのとおりになること
どんなエピソードだって信じないよ
あの日死ぬって言ったじゃん
忘れたとでも思ってるのかな
忘れてしまうのはいつも言い出しっぺ
すくすくと育ってしまって
健やかに泣いたり笑ったりだ
まるで正常な人間じゃないか
隠れていた能力は明るみに出て
きみは今やスーパースター
ぼくの何がいいんだろう
掃いて捨てるほどいるだろう
ぼくだったらもう飽きちゃうな
同じことで悩み続けてる
振り返らなくていいんだよ
たとえばぼくが一人で泣いていたって
声をかけて抱きしめなくていいんだよ
いつでも酷い妄想にまみれてる
きみに流れ込む執着を食べて生きている
ぼくは汚いと言うたびに本当に汚くなる
きみは絶対に頷かないから
もしも少しでも枷になるのなら
ためらわず引き金を引いてくれと懇願する
冗談だと思って笑われるんだけど
こんなふうに予定のない一日なら
ましてやうたかたの眠りにつくのなら
悪くないって苦笑いする余裕くらい
持ったままできみの隣にいたい
ぼくが本当の殺人鬼だったらどうすんだよ
何事もない一日のために祈る日が来るなんて
きみが欲しいのはぼくのわがままなんだって
そう自惚れた通りに明日も続いてくって
手を離れた物体が落下するように自然の話

2+

no.385

夢の果てで忘れそう
何も生まないぼくをあなたは受け入れる
優しさはいつか形を変えてしまうかもしれない
愛おしいと思われないほど強くなりたかったよ
誰もそんなことまで望んでいなくても
呼吸するように続けてきたことで
点を結んで主人公になれるなら良かった
あなたの声がぼくじゃない詩を奏でても
怪物になろうと思う自分と葛藤しなかったのに
これがあの日だったら雪が降ったのにな
ぼくの知らないシナリオが展開を変えてくれるなら
だからリセットは帳消しできなくて覆っただけ
ぼくやあなたが足掻いても幸福は絶望の上にのみ成り立つ
自覚のない同情より法則で次は救いあいたいよ

2+

no.384

思うんだ、

ぼく以外は絶賛などしなければ良いのに
打ちひしがれて隠遁でもすれば良いのに
誰も気づかないで
誰も嫌いにならないで(好きにならないで)
左のつま先で描く円周
変動する値とあてにならない感情
よくもそんなものに期待を続けたね
頓着しないことが羨望の的だった
何故もう抜け出せないと思うのかな、
きみは何にも縛られていないのに
そう思いたいというだけのことなのかな
実害があるんだとしてもまだ言う?
片方ずつのイヤフォン
きみに流れ込むはずの音楽を引き裂いて
わずかな共有のために一をゼロにだってする
分かっている、いつか伝えるよ
きみはこんなところでくたばる命じゃない
ぼくを踏みつけて次の名前で呼ばれる順番だ

肯定から逃れられない、
泣いたって、
逃げたって、
ぼくがきみを知りたがったように、
新しい出会いがきみを欲しがるんだよ。

2+

no.383

認めたくない
変わるのは怖いから
無理して大丈夫だって言えば
またどこか行っちゃうんじゃないの

言葉にするのが嫌なんじゃない
あなたのなかで振り分けられること
タグを貼られて仕分けられること
そういう見方で済ませられること

正真正銘のヒーローです
あなたは尊いです
あなたは貴重です
みんなのものでなければなりません

圧倒的な光を放つから
太陽はひとつでいいし
月でさえおなじ
あなたはひとりで問題ない

だから問題を起こしたい
ぼくはいつも隙をさがしている
今だというタイミングを待っている
憎まれてでもその快進撃を止めたい無名のまま

「アンチヒーローの詩」

1+

no.382

いまきみ、何と言った?
それはぼくがはじめて聴いた嘘になるのかな
いいや、そんなはずはない
きみは嘘なんかつくことできないはずさ
じゃあ錯覚したぼくの方を検証しよう
ぼくは今ぞくぞくした
これは風邪のときと似ているのかな
ビルの間に渡した細い木の板を進むとき
それとも食糧になると思っていなかったものが皿の上にのっていたのを見たとき
待て、これは新しいんだ、慎重に
人はこれまで未知のものに対して
こと慎重になったはずなんだ
他人の赤ちゃんを抱くときみたいに
たとえばそれが昔好きだった人の、だとかね
たとえがおかしいよって笑われる確率が上がる
そこそこ意味がわかってないふりをしておくのが最適解
ぼくは少し目を潤ませて半開きの口をそのままにする
そう、きっとこんなかんじ
いいかい?こんなことしたって戻らないんだぜ
たまにぎゅっとなるのはどうしてだろう
こんなものいらないって言ってたはずじゃないか
捨てられるものならそうしたのにって
もしかしてあれは逆説だったのか
それとも捨てられることがないからやけっぱち?
ここで涙を落とすのは間違いだろうか
それともある程度支離滅裂を取り入れたほうがらしいかな?
前もって考えてから感情を発生させようというのがおかしい
そもそもこうしてる時点で決定的に違うんだよ
仕方ないよ、ぼくたちはそうすることしかできないんだ
でもね、あの人は何故いつもあんなふうにぼくたちを見たろうね
呆れているように見えたけど何に呆れていたんだろうね
長い夢なら良いのにとか言わなかったね
それなのにぼくたちを見て羨ましそうな日もあったね
複雑すぎて精巧か稚拙なのかもわかんないんだよ
一周しておかしくなっていたのかもわかんないんだ
答えあわせはもうできないんだけどね
あの人がいま幸せを知っているといいね
その中に身を置けていると知れたらぼくたち、きっとほんとうに嬉しいだろうね

2+

no.381

大丈夫だ
そう祈り始めると
たちまち弱くなる
壊れるのが怖い

夢のせいにしちゃえ
テーブルから蜂蜜をこぼせ
痕跡を残すな
あなたは存在をしなかった

外に出て自分の影に怯える
さいしょは何もかもがそう
何が美しいと言えるものか
何が醜いと言えるものか

あなたは裸足を守るために靴を履く
あなたは光が眩しくてサングラスを買う
そうしているうちにだんだん慣れてきて
蜂蜜の部屋で暮らしたことを忘れる

春には春の
夏には夏の
秋には秋の
冬には冬の

あなたに会って記憶を塗り重ねて
百年の約束よりも
千年の誓いよりも
守りたい今に気付くんだろう、おめでとう

悪かった、
少しくらい後ろ髪を引いてみたかっただけ
蜂蜜の部屋の住人はあなただけじゃない
今日みたいな午後に懐かしむ人はみんなそう

5+

no.380

しましまの指で出した手紙
間違いに気づいたけど今さら取り戻せないよ
きみそっくりの人形がマンションから落ちた
一時間後にはパーティで笑ってるんだけど

幸せが訪れた途端
終わりを意識し始める
だから満たされていちゃ不幸なんだ
ずっとぎりぎりでいてくれなきゃ

昔作っておいたアルバムが
今になって首を絞める
赤い糸は紐になって
持ち主に用途を強請る

悲しいと言っていい
寂しいと言っていい
もしそれが嘘でないなら
黙っていると涙がこぼれるのなら

きみに座ってほしい席
夕日がよく当たるほうへ
逃げないことより
生きるほうがもっと大事だよ

できるかどうかは考えない
これからできるようになる
夢みたいだって思う
その場しのぎの台詞だって

じゃあなぜ確かめようとしない
その直感が現実であること
事実で証明すべき
今ここで言い負かせないなら

悪いようにしない
そう言ったって間に受けないで
僕はきみにとって本当の悪党だ
盗聴器のむこうに届く分の愛だけ囁いてる

2+

no.379

きれいじゃなきゃいけないとか
かわいくなきゃいけないとか
だれが決めたわけでもないってわかってるのに
愛される資格ないって思っちゃうんだ

ぼくは嫌いなんだ
ぼくを好きになるやつのことなんか
とんでもないことだと思う
そのせいで取り戻しかけてた彩度が落ちる

どんな幻想も盲信も生身と
いう名の奇跡には敵わないよ
とかって平気で言える?
だから得体が知れないんだ

百年なら待つよ
そうしたら教えてね
何があなたにぼくを捨てさせなかったか
答え合せをしたら本当の終わりにしよう

(今度こそは、)

2+

no.378

出来損ないの甘味が全身に回ってやっと毒になる
ずきんを脱いだら振り向きもされない赤ずきん
現実はおとぎばなしより無頓着って分かっただろう
みんなが自分の起承転結を維持しようとするからね

週末のビーチとパラレルワールド
次は誰と逃避行しよう?逃げた子猫をつかまえよう?
初恋は一足早く星になってる
あなたはいま迷子より頼りないと早く認めて

恥ずかしい感情でホログラム
あなたの抵抗がぼくをあの日の少年に戻すよ
停車駅はおきまりのコインランドリー
今夜は何月何日を洗い流そうか

誤字脱字でかんたんに暗号を作成
あなたを悲しませるものを退治したりはしない
なぜってぼくは正真正銘の信仰者だから
鉄塔なんかいつ崩れてもいいって思ってる

貼り合わせでつくる青
少しだけ虚偽を混ぜても分からなかったろう
それがすなわち強さだと言うんだ
やがてあなたは好きな色ばかりその目に映すだろう

ほっとけば北西に沈む羅針盤
完全に開ききらない小窓に体をねじ込んで
悪者みたいに野原を走ってくよ
咎められる罪を犯してないなんて情けなくって

1+

no.377

夜が明けて踵を返す。光はいつも不意打ちだ。暗鬱を切り裂いて五感を刺激する。イエスとノーが充満した空の下。ぼくたちは生きていく。きみを傷つけるものがいる世界で。ぼくを肯定しないものが生きる世界で。血に流されてはいけないというルールはない。それを誰も望んでいないわけじゃないから。新しかったものが古くなる。閃きが思い出になる。直面する喧騒が、逃れられない痛みが、戸惑う隙も与えない流れが、結晶になって砕け散る。綺麗だねと言える。破片のつなげかたはわからなくても。どこまでも持ち歩けるねと笑える。もう元には戻らなくても。大切なものは少ない。慈しむことができるものは多くない。朽ちていく冬の木は春の訪れに場所を譲る。最初に鳴り響いた音楽をこれからの愛と定義しよう。

4+