no.446

白と水色のあいだ
書き残されたメッセージ
ぼくの魔法とひきかえに
きみが幸せでいてください

耳を傾けなくていい
そう覚えておいて
きみを悪くいうやつに
耐えられないなら割ってもいい

捻じ曲げられた花の茎
裁つに裁てない裁ちばさみ
限りある涙は止めようとするのに
だだ漏れの時間を見過ごすのはなぜ?

たとえば夕陽が綺麗だと思えなくなっても
いつまでも痛む傷を抱えるよりはいいな
たとえば朝の怖くない日が来たとしても
どこかで終わりを期待するよりはいいな

小瓶に詰めるものは
星砂と鉱石
面影と活字
正体がわからなくて香りのないもの

迎えに行きたい
迷子のきみがあと少しで境界線をこえるまえに
そして少しずつ取り戻したい
あと一秒でも遅かったらどうしようもなかった

2+

no.445

自分を卑しくしてやっと言える気がする。
大切にしてほしい。

熱に満ちた桃色の砂漠。
転生に焦がれて干からびてしまう。

おおきな生き物の影で栄養になりたい。
支えになれないのならその日の食事に。

(もういいかな。)

数字だけが浮上する。

ぼくたちはそれを緑だと見誤る。
ぼくたちはそれを湖だと見誤る。

制限のないイメージ。
こびりついた血。

暴力が恋しい。
錆のにおいが懐かしい。

ここでこうして醸成する。
野蛮な気持ちを持ってもう一度人として生まれるため。

1+

no.444

病室の椅子から立って
起きないあなたを見下ろして
窓の外の水平線を眺めて
同色のまぶたに銃口を向ける

だってまたいなくなるかもしれなくて
ぼくの前から姿を消すかもしれなくて
次は戻らないかもしれなくて
もう奇跡は起こらないかもしれない

ほかのやりかたがわからなくて
たぶん今じゃなくてもよくて
だけど尊いなって思ったら
もう今しかないような気がした

波がちいさく光ってる
どんな言葉も切り刻んで
寡黙であることの優位性を見せつけてくる
ぼくは次の季節を受け止められるだろうか

まぶたがひらいて銃口に気づく
まばたきをしてぼくのことを見る
それからもう一度銃口に視線を戻し
ちいさく笑うとまた目を閉じた

(世界で、いちばん、しあわせな坊や。)

人差し指がトリガーを引く
銃口は火を吹かない
チープな万国旗も出てこない
何故ならそれはオモチャではない

どうしても。

生まれ変わってもかなわない
あなたは知らなかったはずだ
装填されていたかも知れなかったわけだ
それでもあなたはまた目を閉じた

ガーゼの白がいばらの棘より鋭い
途方もなく甘やかされている
ぼくは、許されている
海だけがそこにあって告発者は不在。

本物だったらどうしていたの
嫌いになんかならないよ
そういうことをきいているんじゃない
世界でいちばんしあわせになるよ

怖くなかった?
まさか
ほんとう?
きみがかなしむことに比べれば

甘やかされている
血も骨もつくりかえられていく
あなたは何も知らないぼくに
すべてを差し出すことですべてを受け取る。

2+

no.443

きらきらできなくて、ごめんね。

モデルの男の子が言う。きみの好きなキャンディの包みみたいに。って。きれいだ、そう、言われるたびに傷ついていたんだ。はやくはやくって呼ばれている気がして。蜂蜜がかかった午後に、食べそこねたパンケーキのクッションで、途方もなく時間のかかる殺りくを始める。何年かかってもいい。ほっぺたに楓の茎みたいな引っかき傷をいくつもつくる。上手な笑顔なんてきみらしくないから、あす、早朝、剥がしにいこう。それからふたりでコーヒーを。誰のものでもない朝を。誰のものにもならない約束を。

2+

no.442

いつかこの子はぼくを裏切るだろうか。それも、いいな。それでも、いいや。シャーベット、夢は追いかけても消えたりしないよ。おそれるものがあるとすれば、身動きをやめて蛹に戻ること。傷つかないように、傷つけないように。言葉がとどかなくなることがわかる。今この瞬間に何をすべきかも。ぼくは臆病なまま、誰の血も流すことができない。接触せずに引き裂くことができないから無駄に一歩を踏み出す。文句なら時代に。好きで生まれたわけじゃない、なんて、とっくに誰かが手を付けた常套句。咲くか、この花。今にも泣きだしそうな瞼を覆うことしかできない。

2+

no.441

まもりたいひとができた
そう言うとどんな顔をするだろう

怒られるだろうか
感情を持つなとあれほど教えたのに

ぼくの運命をぼくが変えることは許されない
(あなたはそんなにも簡単に断言する)

しかし予定はいずれ狂うものだと
いつかあなたは知ることになる

まもりたいでは不機嫌になるなら
もっと一緒にいたい、ではどうだろう

鈍感なので気づくのが遅いかもしれない
それですれ違うのもいいかもしれない

ぼくは冷え切ったものが好きだ
あたたまるまでを見ていられるから

あなたが生まれたとき
ぼくはこの世にいなかった

あなたはたったひとりで生まれた
ぼくならきっと耐えられない

どうにもならなくて冷たいままなら
禁じられたことを為す際のいいわけにする

好きなものがわかるともう怖くない
ぼくがあなたを嫌いでなくてよかった

こんなにも凶暴で残忍なつくりものが
あなたをまもりたい生き物でよかった。

2+

no.440

あの熱狂がいつか終わるなんて、だれも思っちゃいなかった。夜の凪のようにかけ離れた、あまりに遠くかけ離れたものだった。だからって幻だったなんて言わせない。再現できない精巧なホログラム。まったく同じと言い張っても少しずつ書き換えられているよ。なるべく繰り返さないほうがいいんだ。ほんとうはね。どうしても眠れない夜に少しだけ巻き戻したなら、あとはそっとしておくんだ。変形しないように。歪曲しないように。いびつであっても愛せるだなんて思うなら、それがまだ原型だと狂信しているだけのことだと思うな。甘いんだよ。何もかもが。ぼくも、あなたも。革靴に宝石を仕込む。誰の、どんな期待も、その仕草に打ち負かされる。ちいさな心臓。個性のない鼓動。だけどそんなものに左右されたりしない。あなたはあなただけを生きる。ぼくがぼくだけを一回きり生きるように。物語は終わらない。だってまだ始まってもいない、この物語は。

3+

no.439

眠るきみをみている。きみは夢をみている。あのひとの名前を呼んでいる。苦しそうに呼んでいる。また繰り返しているのか。ぼくはうんざりする。きみがあまりにぼくに似ていて。物音を立てて気づかせてやることがやさしさだというんなら、ぼくは死ぬまでやさしくなれない。きみが過去にとらわれていることを嬉しいと思ってしまったから。救われないで。覚えておくんだ。ぼくはやさしくないけれど、きみだってそうだったことを。忘れないでおくんだ。目が覚めたらレモンタルトをあげる。飲めばなくなる紅茶と、時間がたてば消える夕陽をあげる。同じ罪を背負おう。同じ夢を見ることができないかわりに。コーヒーカップのふちが刃物でないことを祈ろう。猫の瞳が水槽越しに膨張する。あれにいつも見張られている。しあわせなんか口にするだけで手に入るもの。もう、二度と、そんな味気ないものに、憧れないでくれ。きみが悩むとき。きみが悔いるとき。ぼくはきみをもっとも人間だと思う。瞳孔がひらいたり狭まったり。ぼくを蔑むきみを正解だと感じる。百合の花がテーブルに落ちる。陰がなくなったら、ぼくはもう目もあてられない。

3+

no.438

ねえ、ぼくたちちゃんと見つめ合えている?あなたが今をやり過ごしているようで心配だよ。花冠はどんどんつながって豪華になっていくけど。いま、ちゃんと目を合わせてほしい。ぼくには貫きたい嘘があるんだ。印付けになるならガラスを叩き割ってもいい。この時がいつまでも続くなんて思わないでほしい。あなたにはちゃんとぼくを切り離してほしい。ふたたび地上に戻れるように。知ったものについて引き継げるように。時代が持ち去った海や、まだ与えられていない輝きについて。奈落の底で待ってはいけない。あなたが落ちるなら天地を違えてぼくが決して助からないようにする。どちらがより尊いのかは明白だ。青い日にかざした手指に塗れるものが、ぼくの血であってほしい。軌道を変えた惑星に、あなたのほうが守られてほしい。

3+

no.437

朝がこないならいい
来るとわかって言い聞かせる
あなたはさみしい目をする
それも生まれつきかな

暗闇で光が踊るのを見たよ
平気そうだった
夢は逃げないと言っていた
誰も平等に知らされない

年号が変わるね
この夏も標本箱に並んでいく
ずっとリアルだと思っていたのに
ぼくのリアルもいつか文字になる

同じだった
ぼくが振り返るように
まだ会わないあの子が振り返る
視線は決してぶつからない

星が流れた
そう錯覚をした
どんなに美しいか知らないだろう
あなただけは気づくことがない

外側から見ることがないから
ぼくではないから
あなたの名前でぼくを呼んで
途方もない距離が分かるだろう

3+