【小説】不機嫌の理由

たとえば他人を愛すると決めたらとてもらくになった。薬みたいだな。決めたんじゃなくて認めたせいかもしれない。言葉足らずで悪人だろうか。それでもちいさなものだろう。あさはかだと笑うだろう。嘘ばっかり。

おまえはそれほど強くない。だけど、ぼくに見破られて立ち直れないほど弱くはない。でもやっぱり頑丈とまでは言えない。たとえば朝にスープを飲める生活、夜がふければベランダで涼みながら煙草をすっていられる生活なんてものを与えてやったら、だめになる、なんてもんじゃない、生きていけなくなる。

そんな日々に埋もれて平気でいられるほどタフじゃないだろ。だから欲しがらない。これがあざといと言うんならそうなんだろう。ぼくの行動はいつも意図的なものばっかりだし。因果を推し量ってものを言うし。

かんたんに救われないで。安らいだ寝顔を見せないで。幸せだって言わないで。終わりが透けて見える。一緒に落ちてくれないと嫌だ。終わりが遠ざかるまで。

パラソルがひとつ、青い空に吸い込まれる。

もっともっと遠ざかるまで。
幸せだって言わないで。
平和とか永遠とか使わないで。
今だけ、ぼくたちにとってはいつだって今だけなんだ。
それを忘れてしまいそうになるから、溺れさせてやらない。
ぼくがいつでもいなくなれることさえ覚えてられないんなら、笑顔なんか見せてやらない。

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