No.690

空から星がすべり落ちる夜、だいじものは変わることもあると気づいた。さよならを悲しむ人がいるけれど、さよならさえ言えずに会えなくなる人って案外おおいよ。今夜も、明日の夜もだ。また会おうね。って、手を振って永遠に別れていく。汚れたぼくは冷たく清潔なシーツにくるまって、つけっぱなしの液晶画面が照らし出す横顔を見ていた。ぼくが見ているおまえの横顔は、内面の一番外側なんだ。にじみ出る、とか言うけれどそうじゃない。内面そのものなんだ。懇願するカウントダウン。間に合わなければぼくたちは終わる。そんな仮定で見つめていたら、最後の1秒で視線が合った。そのうえ、あなたは笑った。ぼくを見て笑った。ずっと愛していると言わんばかりの。憧れてたんだ、解析しなくても分かる。おまえの目はすごいな。すごいんだな。人間はすごいや。液晶画面がにじんでぼやける。悪い夢を見たんだと仕方のない嘘をついた。奇跡が来ようと来まいと関係ない。ぼくは明日もこの部屋で目覚める。

「野良猫の詩」