No.717

ひどい喧嘩をした後に、プラスチックに押し込んでいた海が溶け出してくる。無視していたらかかとまで上昇して、それでもなにもしないでいたら腰まで浸かってしまった。きみに連絡を取ろうと思うんだ、でも手段が遠いところにある。傷口に海水が染み込んできたけどぜんぜん痛くはない。もう海水ではないからか?傷の半分は自分でつけた。傷ってたいていそんなもの。半分は自分でつける。あの子もこの子もぼくだって。ほどよく拡げたら持って行って見せるんだ。ほら、きみのせいだよ、こんなに。ちゃんと受け止めてよね。優しい心を痛めたい。やり方がまずくても。ぼくは子どもだ。ぬいぐるみを捨てられないでいる。白い舟を浮かべた丸い海のことも。海底で名前をひろった。ぼくのかな。きみのかな。ここではみんな探索者だ。だれのかな。あれはどこかな。これはどこかな。ぼくはだれのものだったかな。飽きるほどさまよったあと、淡く光がのびてくる。空き部屋に朝がくる。海ひとつ捕まえておけないで、からっぽの朝がくる。流れるタイムライン、訃報と笑顔が隣り合って整列してる。あちらが夢、これも夢、ぼくの傷は晒されて消えてった。海を分けてください。ぼくも差し出します。光をあげます。もう一度海を売ってください。きみにつながる、つなげる、ちゃんと目覚めたぼくにあの海をもう一度。

2+

ちょっとよくした。

隠居者が庭の手入れに精を出すようにここも気づいたらちょっとずつよくしていきますマン。

PCでしか見えないけどプロフィールをつけました。スマホだと下の方に表示されちゃうので。

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3+

No.716

いつか使えなくなる
弱い魔法を繰り返してた
きみにたぶん魔法は効かない
それでも懲りずに繰り返してた

雨の夜になると
たまに泣くのはなぜなの
そう尋ねたぼくに
助けなくちゃと思うんだと答えた

(なにを?)

空を
たくさん零さなくちゃ
みんなに行き渡らないだろ
少しでも助けなくちゃと
微力ながら尽力を

ぼくはからかわれたのかも知れなかった
だけどなんだかわかる気がした
空からきみを見ているときは
しょっちゅう絶望を抱いたものだから

そんなにつらいのなら
落ちてみればいい
あのひとはそう言いぼくの背を蹴った
乱暴なひとだ、ほんとうに乱暴な

ぼくには魔法が使えるんだよ
うん知ってる
秘密にしてたのに知ってるなんて
使われているなあと思っていた

きみが笑うので人差し指で星を撃つ
弾けた破片がひろげた掌に落ちて
それを捏ねて宝石にした
悪いことをするね、ときみはまた笑う

カラスが歩く
目玉焼きが焼ける
紫陽花はもう少しで咲きそうだ
そんな風景にきみのいること

見慣れた
変哲もない
それゆえ憎むことさえあった
きみが加わるだけでまた輝くということ

初恋はやぶれる
好きな人とは結ばれなかった
だから今に至る
住むべき人と暮らせる惑星

4+

【雑記】この体たらく

今月は割とブレブレだなあと思う。書き方とか書くこととか。うーん、めずらしいな。いろんな言葉をもらったり接したりしたからなんだろう。閉鎖的な独りよがりな思考がややかき回された感ある。その証拠に5月の投稿記事は現時点で66記事である。死ぬまで思春期かよ…。数値的にはこのブログ始まって以来の最高記録である。いいと言えばいいような、悪いと言えば悪いような。令和になったりいろいろあったからな。ただ、正直自分のやり方がテンプレート的な感じになりつつあったので、少しは風が吹いてなんかゆとりができたことは良かったかな。とか私がいつもなんか意味わからないようなこと書いても読んでくれる人がいるのはすごいことだ。私だったらこんなもん読みづれーよ!ってなってもう画面閉じるかも知れない。本当に神さま…。あなた神さまだよ…。ちょっと今さらっと流したのだがアイホンが「よみづれーよ」を「読みづレーヨン」と謎の予測変換しやがったのでモヤモヤ少し吹っ飛んだ。
むしゃくしゃしてる私のこと笑わせてくれてありがとう…きみたち…いいこだね…(Siriやアレクサとばかり交流する人間の眼差し)。

3+

No.715

何も変えられない
その思いに押しつぶされそうになって
いつもの散歩ルートを変えてみた
工事現場の脇を抜けて

難解か単純かの見極めができていない
同じ問題の前で立ち止まっては
回答を保留にしているんだ
この問いは難解か?単純か?

(そうじゃないだろう、)

どこまで差し伸べたら逃げられて
どこまで差し伸べたら感謝されるんだろう
考えるより先に体が動く
あいつみたいになれない、ぼくは無価値だ

ふと顔を上げてみると
貯水池に生えた草を滑って
光がぼくに伸びていた
さらさらと優しい顆粒が注がれた

脱ぎ捨てられた片方の靴
ベンチは柵の向こうで休めない
ぼくを追い越す自動車が
衝突して大破するのを期待する

こんなまぶしい始まりの朝に
誰かにとっての運命の日に
ぼくはいつでもシャッターを切れて
分かり合えないまま神経を逆なでする

すご、ギンギンだね
間抜けが過ぎるふわふわの感想
それがきみから下された評価
ぼくの僥倖はきみの存在かもしれない

おいしいね
まだ食べてない
おいしいよ
絶対だな

もしぼくがぼくを変えていたら
こうして向かい合ってきみと朝食を
取ることもなかったんだと知る始まりに
変えられなかった命の残りを始めていく

1+

No.714

かざされた手が
知ってたより薄い
べつのものを守って
だけどぼくに触って

有効回答が干されてる
ぬいぐるみとベランダで
読解を試みてくれてありがとう
視線の動きだけで好意は伝わる

少しいいことがあって生き延びられて
ちいさな舌打ちが聞こえて死にそうになって
これからどんなことに打ちのめされるんだろう
声は出ないのに頭の中は張り裂けそうなほど

あなたの手を探していた、
あなたの手を探していた、

結ばれた星座にハサミを入れて
こぼれるひとつポケットへ入れる

どこかで船が難破してしまうのでは
誰かが夜道で迷ってしまうのでは

あなたは見透かす、懸念している場合か
口に含むとお菓子みたいにパチパチと鳴った

遠くから声がする
あと一歩踏み出せばいい
ぼくは言われたとおりに生き延びる
いつか来るお別れに向かって生きる
今もちゃんと甘く残るよ
あなたのくれた星のかけらは

2+

No.713

緑のレース
カーテンのそばで揺れていた
たゆたうものには生まれたくない
もう

ぼくを侮るきみのこと
微睡みが磔刑に処すだろう
誰も立ち入れない楽園の最奥で
集められたばかりの蜜が喉仏を濡らす

明日も起き上がれる
そう信じ栞をはさむ見物人

読書、
は、信仰。

この世でゆいいつ、
輪郭を持つ祈りのかたち、だ。

慣れない舌で言い残して

懐かしい名前が刻まれたガラス
その向こうに誰かいる気がして
進むことができなかったよ
幻と知るのが怖くて

暴かれていない謎のあること
手がかりのない暗号のあること

それがあって息ができた
それがなくては鼓動がとまる

奇跡は神さまにも起こせない
彼もまた偶然の産物だ
言葉の続きは分からないまま
粒子をどれほど健気に集めても

2+

No.712

これじゃいけない。認めることは怖かった。ぼくを好きな人なんてどこにもいない。考えてみればそれはそうだった。ぼく自身が好きではないぼくをいったい誰が好きになると言うんだ。それでも生きていれば日常を覆すような出来事が突然降ってくる。あと一歩踏み出せば明日が来ないんだなあ、それって素晴らしいよなあ、あと一歩で。思ったぼくの前を列車が通過する。駅員さんにこっぴどく叱られた。遅刻だな。とぼとぼ会社に向かう途中で、コンタクトレンズを探しているひとに遭遇する。言い訳に使えそうだと声をかけた。それが六日前のことで、きみとぼくはどういうわけか同棲を始めた。本当にコンタクトレンズを探していたの。ちがう、探すふり。車に敷かれないかなあと思って。きみはそんな無謀な考えをしていた人物とは思えないほど朗らかに笑う。死んでしまうにはもったいないと思わせるほど生き生きと笑う。すごく迷惑な発想だよ、それは。善人かも知れないひとに、一生の罪を負わせるつもりだったの。ぼくが言えたセリフじゃないけど。それからぼくはきみと暮らして、ときどきズルすることを覚えながら、好きとかかわいいとか素晴らしいとか尊いとかを言われ慣れていく。じゃっかん不本意なこともないではないけど、きみはぼくに強いないところが安心できる。幸せと言ったら幸せは逃げていきそうで、好きと言ったら好きが減りそうで、臆病なぼくの目のこと、きみはいつもきらきらしてるって言ってくれる。きみが映ってるからだよ。死にたいの二乗が共鳴しあって、誰も知らなかった乱反射でかがやくんだよ。西陽さす六畳半の橙色のまんなかで。

3+

No.711

だいじょうぶという言葉には責任が生じる気がして、あいしているとばかりささやいた。

それはぼくのものだから。ぼくの心をひらいて見せびらかすくらいなら、きっと誰も傷つけないから。

頼ることを知らない生き物、こちらが薬を塗ろうとすると気付いてしまう、傷を負っていたことに、そしたら傷はやがて熱くなって、罪のない存在に長引く痛みを与えるだろう。

他から見たら手当てせずにいられないほど重度のものだと、あなたを深刻にさせるかもしれない。

踏み込んで前を向かせるが良いんだろうか。そうは思えない。そうは、思わない。

正解を刻んだ金魚を土壌から掘り起こしたくて、朝が来るたびなるべく凶悪な立葵を探すんだけど、探し当てることができない。

怖いものや悪い思い出をともなうものは視界に入らないしかけになってるんだ、ぼくの目は。

何も見えない人になりたくなくて慎重に生きても、きのう見えてたものが見えない。ないはずのものにぶつかって、ああ見えていないだけだったと頭を抱える。

ぜんぶ嫌いになりたくない、なにもかもに怯えたくない、それでも体は自衛を優先させて、ぼくの世界からひとつずつ色を消してしまう。

だいじょうぶでいいよ。

あなたの声も透明になりそうで、だから絶対に聞き逃さない。

きみが私にかける言葉を、だいじょうぶ、に変えてたっていいよ。

言わせてしまうなんて。それを、あなたに、言わせてしまうなんて。

情けなくて隠れたい。ふがいなくて張り裂けたい。だけどあなたが何度も促してくれるので、とうとうぼくはとっておきの禁句を口にする。

ずっと生かしたかった。糧になりたかった。漂いたくて、気づいて欲しくて、体の中で生成を続けていた。

ぼくの内側で濃厚な蜜がうごめていて、あなたはそれを吸い出してくれる。そしてたまに口へ運んでくれる。ひどい味。魂だよ。まさか。めぐっているよ。

強い味だ。
忘れられない味だ。
ぼくの視界が一気に拓けて、あなたの胎内にまた宿ることを許される。

3+