No.865

傷をえぐれば許される
もう充分だと擁護してもらう
足りないと悲惨なまま
ぼくたちは居場所を失う

顔のない犯人
姿のない不特定多数
ぼくだってそうだ
ぼくたちだってきっとそうだ

光が眩しい
弱い力で前を向くより
眠っていても呼吸のできる
薄い青い終わりみたいな暗闇がすき

あのねで始まり
そうだねで終わる
ただいまとおかえりのように
生まれて死んでいくのだと理解をする。

3+

No.864

毛布の中で聞くラジオから
だれかの遺言が流れてくる
ここが世界ならいいのに
ここがすべてならいいのに

許される理由が見つからないから
息をひそめて
光に向かうことをやめにした
そんな決意もたやすく溶かし

さようならで仮死する
冷たい手で触ると
血のありかがよく分かるね
ふたりの意味がよく分かるね

優しいノイズにきみの遺言
かき消されずに繋いでいって
生と死を分け隔てないで
せまく暖かい宇宙をつくっていって

忘れようとしないで
忘れるとおりに忘れて
逆らわないで
夢で何度も再会させて

4+

No.863

僕たちは一度きりだ
実感できないことを語るとき
うそつき、と空から言葉が降ってくる
お利口に聞こえないふりができる

今年は一度きり
今日は一度きり
いまこの瞬間は一度きり
一瞬一瞬をつなげて雪原にしたよ

同じ時代に生まれたの
前世も来世も知らないよ
同じ次元に在ることの純粋
きみが日常になるという奇跡

4+

No.862

私は光がなくても生きられる
嘘でしょうと思うでしょう
逆なの、光があると生きられないの
謎謎のように感じるのは定着した証ね

あなたこの世界を正だととらえることに成功した
私が少し風変わりに映るかも知れない
それでいいの
それを望んだの、一緒に。

吐く息が少しずつ白くなって
人の手指が柔らかく温かなものに包まれる頃
ふと見上げた空に星がいっこも見えなくて
思い出すことを忘れたとしても

祝福されたこと
送り出されたこと
いつか迎え入れられること
舞台袖のような毎日で息をしていること

有限で綺麗なものを捕まえて
優しいものに捕まって
雪が降ったら私の言葉
雪が止んだらあなたの明日

音も無く区切りが一つ
ちいさな船を水難事故から救う
あなたの知らない世界の隅っこ
誰も知らないあなたの魔法で

4+

No.861

手を伸ばした
という事実が欲しいだけ
そういう触りかただね
誰も悲しませない

揺さぶられない感情は
何のため、とあなたに問うよ
答えられないあなたの目を見て
なぜ黙るの、と質すよ

理由なんてないんだ
つくらなけりゃ
意味なんてないんだ
欲しがらなけりゃ

上手になれない
器用になれない
ならなくていいよ、
そのままでいいよ、

あなたが言うのを知って待ってる
ぼくは小さな臆病者で
隙あらばいつでも消えたい
死ぬんじゃあまりに大掛かりなので

あなたに残る方法が見つからない
毒にも薬にもならない恋が
たったひとつの爪痕を残したくて
生まれ変わるくらいしてみせると豪語する

4+

No.860

百年に一度の出来事を
奇跡と呼んでいいのか迷う
口にしていいのか
君に伝えていいのか

二つ並んだ小さな星は
この距離じゃないと分からないんだ
ぼくのぼくのぼくの血がまだ
ぼくのものではなかった頃の出来事

生きている人は
死ぬなんて思いもしなかったよ
ぼくだってそう
会うことのない誰かへ血を送る

奇跡はこんなに日常にあって
迷うなんてちっぽけだよ
ほとんど隣同士に近い距離で
騙し合うための嘘なんて止めろよ

6+

No.859

ずっと守っていた
守られているのは自分だと
認められずに血を流した
綺麗な赤ほど生臭いな

(目と鼻のどちらかが嘘をついた)

僕の祖先が誑かしたんだ
愛をお告げよ
雛が羽ばたいて
歌を囀るより先に

目を瞑って
つむって
そのまま潰してしまいたかった
器官は嘘をつきたがるから

繰り返すだけ
呼吸
四季
生と死、連綿と
繰り返すだけ、同じように

鉄でできたレールなら
お喋りしながらはみ出てゆくのに
はなうたの合間に
だけど話題は生臭い繋がりだから
気がふれた振りで、ひらり離脱を謀る一人

7+

No.858

言葉がぜんぶ光になって
形を失ったらどうしよう
差し出せるものが無くなったら君は
僕を残して歩いて行くかな

忘れないよと約束する優しさが
百年後の君を苦しめるだろう
忘れないでと願う傲慢が
百年前の僕をそれからずっと呪ったように

魔法は切れたよ
あったかも、もう分からないな
午後になると眠くなって強がりを消した
緑の上でだから眠る、君は命を泥棒して。

6+

【小説】暫定天使の最後の恋人【未完】

(思いつき。途中でぱったり終わる話)

あなたが今いるここは天国です。

と言っても風光明媚な光景を比喩しているのではなく、正真正銘の。

いわゆる死後の。

と聞いて「はい、そうですか」と答えた人はあまりいないだろう。

だから、そう答えた。

「あ、はい、そうですか」。

天使。
こいつ、天使なのかな。
まあいいや、天使は、おっ、という顔つきで僕を見る。

「きみは、ええと、感情の起伏が足りないね」。
「そうですか」。
「そうやって生きてきたの」。
「生きて、そして死にました。やり直したいとは思いませんが、何かの役には立ちたかった」。

暫定天使は「ふむ。」と顎に手をやり頷く。

何も考えてなさそうな感じではある。

「無欲なのは素晴らしい。手間が省ける」。

何の手間かは聞かないでおく。

僕はとことん他人へ興味が無いので、少しでも期待を持たせたくない。

もしかするとこいつは話を聞いてくれるんじゃないか?と思われたくない。

「天使には、一度だけの特権がある」。

あ、やっぱり天使だったのか。

「自分が気に入った相手を一人だけ生き返らせることができるんだ」。
「そうですか」。
「良いか、たった一人だ。これはすごい特権だぞ、なんたってたった一人なんだからな!」。
「はいはい」。
「ということで、俺は君に決めようと思う」。
「はい?」。
「俺の特権を君に使わせてくれ」。
「なんで?は?もっと適任者がいるでしょう。飲酒運転に巻き込まれ、幼い子どもを残して死ななければならなかった方とか、プロポーズされた翌日に余命宣告された方とか、僕よりもっとおま、いや、あなたの特権とやらにふさわしい、値する方々が、山ほどいるはず。そもそも僕はあっちに何の心残りも無いし、できれば二度とあんな世界には戻りたくないとさえ、」。

天使がにやついていることに気づいて僕は話やめる。

「…なんです?」。
「感情を、見せてくれたね」。
「それは…」。

あんたがおかしな判断基準を散らつかせたせいだ。

「とにかく、他をあたってください。あなたの特権の使い道は僕ではないはずだ」。
「君の決めることじゃない。もう針を戻しておいたから」。
「はあ?」。
「行ってらっしゃい」。
「はああ?」。
「そして、またここに、戻っておいでね。再会しよう、大好きだよ」。

何と言ったんだ?
天使の言葉は、最後のほうは、よく聞こえなかった。

やけに腹の立つ顔をしてたなあ、ってことくらい。

目を開けた僕はベッドの上だった。
正確に言うと、病院のベッドの上だった。
なぜここが病院と分かるかと言えば、僕はここで死んだからだ。
それだけは覚えてる。

他は、忘れてしまった。

まいった、どうやら本当に時間が戻ってしまったらしい。

シーツに突っ伏した姿勢で誰かが寝ている。

(疲れてるだろう、起こしたくないな)。

なんとなくだけどそう思った。

だけどそのタイミングは勝手にドラマチックに、否応なしに訪れてしまう。

瞬いた瞳が僕を見て、目を擦ってもう一度見て、幻ではないと知って声にならない声を上げる。

はくはくと口を動かして諦めた、おまえに、ぎゅううううううと抱きしめられる。

死にかけ。
いや、生き返りかけの僕に許されるレベルの抱擁ではない。

「…は、放せ、苦しい。また天使に会わすつもりか」。
「ご、ご、ごめっ」。
「耳がキーンとする」。
「先生!そうだ、先生呼んでくるっ!」。

おまえはナースコールというものを知らんのか?

立ち上がって駆け出しそうなところを呼び止めた。

「待って。少し静かにしていたい。誰とも会いたくない。先生、にも。おまえだけ、いてくれればいい」。

動き出していた体がピタリと止まる。

そそそっかそっかーと謎の素直さでもとの椅子に収まった。

「ほしいものは?」。
「…静寂。しずかにしろ」。
「あ、うんっ。そうかっ。ごめんっ。ごめんなっっっ」。

おまえは僕を見てにこっと笑った後、そわそわしながら俯いた。

(なんだこいつ?)。

白状しよう。

僕は、こいつに関する記憶を失っている。

名前も、関係も分からない。

ただ分かるのは、こいつが僕を大好きだなってことと、あのいけすかない天使によく似てるってことくらい。

ふーん。

体はでかいくせに、肝っ玉は小さそうだな。

俯いているのを良いことに僕はその姿をじっと見る。

ふーん。

せっかく「特権」で生き返ったんだ、ちょっとくらい羽目を外しても良いだろう。

吹っ切れた僕は、そいつに向かって口を開いた。

(飽きたのでここで終わり。あとはご自由にご想像ください。)

5+