小説『机上の星』

首にかけた手を少し離し、また押し当てた。あなたは考えている。僕をどうしようか考えて結局殺す。それから部屋の中をうろうろすると、ここは狭いと言い残して散歩に出る。久しぶりに本物の太陽を見て、ああ変わっていないなと呟く。通りすがりの恋人同士が真似をして笑う。最近女の子が産まれた店主のいるパン屋からミルクパンとメレンゲを買う。あなたの幼い頃からの好物だ。それを持って公園へ行くと男の子が物欲しそうに見ているので渡す。親から叱られる。あなたはまた厭世的な考えを始める。ひとしきり鬱を愉しんだら喫茶店へ行く。前回来た時と雰囲気が変わっており壁に掛けられた絵が無くなったからだと気づいた。あの絵は?常連客へ訊ねると「夢の中」と回答がある。そうか。あなたはテーブルにコーヒー代を残し、住み慣れた部屋へ戻る。あの常連客は誰の問いに答えたんだろう?忘れかけていたが殺されたぼくが机の上にあるのを見て、ひとりにして悪かったと心の中で思う。大丈夫。分かっていたから心細くはなかった、あなた、そういう人だよ。そういう星のもとに産まれたんだよ。あなたは今日外であった事実には何一つふれず、今日感じたことだけをぼくに込める。ぼくはあなたが感じたすべてを受け取りもう一度産まれ、いま読者に読まれる詩となる。人は僕をあなただと言う。あなたはもう、別の僕を手にかけている。

2+

小説『ぼくたちの春夏秋冬』

最後の花火が落ちたとき
月が出ていることに気づく
隣の横顔は冷たいだろな
いま触れなくても触れた記憶で分かる

アスファルトを裸足で歩いてた
あなたを偽善者だと思った
羨ましいと思った
ぼくには取り繕いたいものがない

熱量を構成する一要素
信じた人も誰かの大切な人
単語に収斂された歴史が
ぼくの浅はかさを浮き彫りにする

小手先が通用しなくなり
呼吸がままならなくなり
虚栄心がほころび始め
夜が明けそうな冬の一日

あなたが現れた
ぼくの欠陥はあの日のためにあり
あなたの放浪癖はぼくのためにあった
出会った二人は一杯のスープを飲む

好きなものが少ない
だから見つけたら離さないようにしてる
おれにとってきみがたぶんそれで
間違いなさそうだからもう好きにしていい?

笑ってしまった自分がいた
余ってるからあげるよ
命は大切にしろと教わったからさ
見かけによらずぼくは優等生なんだ

春夏秋冬
夏秋冬春
秋冬春夏
夏秋冬春
そしてまた春夏秋冬

ワイドショーが行方不明事件を報じる
悲壮な面持ちのコメンテーター
大丈夫、それほど不幸ではない
ぼくたちは幸せに過ごしている

2+

【雑記】ですらないもの

ぼくの好きなきみをきみは捨ててしまったと言う。捨てたものだからもう拾おうとしないで欲しいと言う。どうすりゃいいの。ぼくには今もきみが泣きたそうにしているのが見える。思い過ごしだと否定するだろう。でもみえる。平行線は交わらないまま、だけどこの糸が平行線である証明は誰もまだしていない。

2+

【雑記】変えたことと変わったこと

今年に入ってから、詩の更新は5の倍数日にしました(これまでは3の倍数日だった)。なんとなくそれくらいのペースで良いかなと。

雑記が増えるかも知れない。雑記がルームウェアだとしたら、詩や小説はもうちょっとよそ行きな感じ。よそ行きってどこ行くんだといった感じですが、乖離してたり演じてたりとかいろいろあるので、ルームウェアではないのかな。などと書くとまるでファッションに興味のある人が豊富なコーディネートを自慢するかのように聞こえるかも知らないですが、本当にそんなことはなく、1シーズン1コーディネートだったらどんなにラクだろうと本気で思う自分に危機感を覚え、人並みにファッションブログや動画をチェックするなど。

さいきん私はお寿司を食べれるようになった。以前は食べることができなかった。食わず嫌いだった。しかし、いつしか食べれるようになった。なんとなく「刺身、食いたい」と思った日から。これと似たルートをたどった食材に「トマト」がある。かつて、私はトマトを食べることができなかった。しかしある日ふと「体がトマトを欲している」と感じ、食べたその日からトマトをふつうに食べられるようになった。

このようにそれまで拒絶していたものを自分から欲して受け入れていくことができるようになる、というのは人間や環境や考え方においても起こりうるんだろうなと思う。なるべく「今」の自分を尊重したいと、そう思う。しかし実際なかなかむずかしく、朝起きてハッとすることがある。歩こう。

2+

No.795

夜が消えていく
きみの瞳から
朝も昼も
やがて好きだったものも

始まりを見ていた終わりがあったよ
色褪せない夏があったよ
終業式の帰り道
八月の終わりに引っ越すことを告げた

きみは知っていたよと言った
いつ教えてくれるのかと思った
ぼくの口から
最後まで言ってくれないんじゃないかと

数年ぶりにきみと再会したとき
言った覚えが無いと言われる
突然で悲しかった本当に寂しかった
だからおまえは私を一生かけて甘やかすべき

電車の窓から橙が手を伸ばしても
絶対に触らせなかった
永遠に価値はないと思うから
いつかちゃんと消えたかったから

ちいさな時差の組み合わせ
またいつか会えるよ
あのひ会えたみたいにさ
そう言いきみは八月の向こうへ行ってしまう

今こそ満たせ
車両いっぱいに橙を
呼んでも取り戻せはしなくて
ふたり何度も見た星々が閉じた目蓋で増殖した

3+

No.794

カレンダーの日付をもう塗りつぶさなくて良いんだよ
ぼくは語りかける
ひとりごとより少しだけはっきりと
自信がないんだ、伝えられる自信が
きみが落とした視線を上げる時ぼくの胸に太陽が昇る
それは光と熱と命をもたらす
あたたかいものは生きている命
きみはそれをまだ知らないと言う
ぼくを前にして知らないと言い
もはや冷たくもないぼくの手がきみの頬をすり抜ける
あの日が最後だと分かっていたならぼくは
きみの幸せを願ったりしていないのに
月が訪れて離れ離れのふたりは
つながることのない世に淡い夜を夢見ている

4+

【雑記】2020.1.5

あけましておめでとうございます。
初詣へ行ったりもちを食べたりゲームをしたりAmazonプライム・ビデオを観て過ごしました。

きのうは『ワンダー 君は太陽』を見てずっと泣いてた。クライマックスなど泣かせポイントでのポロポロ泣きは結構ありますが、断続的に泣いてたのは初かも。ああ、この人もそういう事情だったのか…系にめちゃくちゃ弱いので、あと優しい人たちがほんと優しいし人間つよい。あたたかい。令和初の映画である。

映画といえば先日これまたプライムビデオで何気なく見てた『THIS IS US/ディス・イズ・アス 36歳、これから』という映画?ドラマか。ドラマの第1話が、何気なくポケーッと見てたぶん、まじで驚いてしまって「ええっ?!はっ!そういうことかー!」となった。このようになにかしら仕掛けがありますと言うこと自体がネタバレになってしまう気がしたけどもう言ってしまう。

昨年は感性に訴えるもの、本や映画やその他「すきだなー」と感じるもろもろに時間やお金や関心を傾けられなかったので今年は、いいなー好きだなーにウェイト大きめにしたい。

2020年もよろしくお願いします。

おわり。

4+

元旦の詩

なぜきみはそこで生きられないのだろう。なぜぼくはここで生きてこられたんだろう。苦手をしないと言うなら今こんなところにいないはず。呼吸の罪悪感。優しいものに「生きて」とささやくぼくの手に、一度も使えなかった紐の両端が握られている。自分に使えないから自分で使おうと思った。あたたかいものや柔らかなものが形や色を変えても、見つけられますように。さよならの向こうにある景色を見られますように。そしてそれを信じられますように。あの太陽にとってはぼくらの昨日も今日も大差がない。太陽のようにならなくても大丈夫だと、だけどそうなりたいと願ったりそのように振舞ったりすることを、人間と呼んでもいい。癒えない傷があってもいい。何がきみを光らせているか分からないから。何がぼくの救いになるか分からないから。エンディングまであっという間。ちいさなオープニングを集めたきみがあたらしく呼吸する、いま。

4+

No.793

そばにいて欲しい時にあなたはもういない。命なんて短いんだよ。あなたの言葉は嘘だった。ぼくにとっては。あなたがいないまま終わることもない時間は、なんて永遠なんだろう。似た感覚を知ってる。夕方と夜がうまく繋がらなかったあの日、ぼくはモノクロの街を見ていた。色のあることになんて気づかずに。すれ違った臆病者、ベビーカーの双子、カラスの群れ、捨てられた容器につめられた死にぞこない、その破片。体からこぼれる無意味を持て余し、色は一つずつ消え、ぼくは昔を思い出せずにいた。あなたは道の先に現れた。ぼくより多くの色を手離して、軽そうな体で笑っていた。モノクロとモノクロが出会ったって、溶け合ったって、取り戻せるものなんて何も無いよ。そう語るぼくにあなたは頷きながら、ぼくのまちがいを教えた。しずかに目覚める朝、朝が夢の続きではないことに涙がにじむ。今ぼくの知る中で最もたくさんの色を含んだ一滴が、あなたのいない街へこぼれる。

4+

小説『ナカナオライト』

もう頬杖をついてもいいよ。つきたいでしょ。疲れたでしょ。恋人から出た許可に身を硬くする。本当だよ。皮肉とかじゃない。攻撃もしない。もう、疲れた。

おれたちは満身創痍で向かい合っていた。すべて出し切ったと思ったのに、まだまだ湧き上がる。だけどそれはさっきまでの悪態じゃなく、楽しかった思い出だ。

終わるのかな。
ここまでなのかな。

考え始めたら急に悲しくなって泣き出してしまった。完全なる情緒不安定でふがいない。でも残してやろうと思う。こんなおれを焼き付けてやろうと思う。何度でも思い出すがいい。おまえが、傷つけた、男のみじめな泣き顔を。

誰がそうさせた?
誰が怠った?
誰が追い詰めた?
誰が、だれが、

「ごめん」。

それはルビーのように落ちてきた。

「ごめん。ほんと、ごめん」。

ダイヤ、サファイア、トパーズ、ペリドット、ガーネット、アメシスト、シトリン、タンザナイト、ラピスラズリ、

「ゆるさ、ない」。

知らない石に埋もれて、勝手知ったる星の上。おれは愛と優越感の船に揺られる。掌中にはいつしかヒスイ。もう奪われないよう飲み下した。

3+