2020年4月6日

望んでいたはずのものが手に入った。でもこれってなんか違うな、と眺めている。これって望んでいたものだっけ?望んでいた自分が過去の自分ならもう、それは必要なものでも欲しいものでもないんじゃないだろうか。望んだ時と手に入る時、どうしたってタイムラグがあるから一生追いつけないし満たされないのでは。みんなどうやってるんだろう。とか疑問を抱いても、聞いたってちゃんと参考にできないでしょう。望むものを望んでいた時が1番心地いいかも知れない。だから努力とか手を伸ばすことをやめて、はやく終わらないかなって思ってる。読みたくもない本から顔を上げたら満開の桜が風に花びらを飛ばしていて、なんでいつまでも枯れ木にならないんだろう、こんなに花びら取れてるんですけどって思いながら髪にそれを付けている。心から笑える。そんな自信、ずっとないや。

3+

No.811

笑い話であればいいのに
鏡のなかの誰かに笑いかけた
他に誰もいないので
ぼくがぼくを殺していた

ひとつ嘘をついた
嘘をつかれてだまされていた
と思っていたあの人は
ぼくにも嘘をついていた

花になれたらいいね
枯れて落ちても責められない
かと言って誰も誰をも責めていない
どこまでもひとりよがりの世界

やさしくなりたかった
強くないとできなかった
子どものまま放置された柔らかさが
あなたを許したり追い詰めたりした

潔癖な恋をしているあいだ
いつもいつでも不安だったよ
どこか汚れてしまったのではないか
どこか千切れてしまったのではないかと

汚れてたよ
もう汚れていないところのないくらい
千切れていいよ
千切って大切なものをまた集める

きいろいあぜ道あおい空
答えのない謎謎を持って
あなたに会うため歩いてる
あなたを知るため生きている

3+

No.810

液晶画面の中で
男が笑いかける
妖しげに儚げに
そのどれも見たことがない

待ち合わせ場所にあらわれた
あなたまるで一般人だよ
そうなればいいのに
そうなればいいのかな

意外と気づかれないもんだよ
自分にいっぱいいっぱいで
それぞれの愛しいものにせいいっぱいで
おなじ夢を見るのにせいいっぱいで

いつも人間でときどき獣
野良猫みたいな日もあれば
徳を積んだ人格者のような日もある
みんなそうだよ

言ってあげたいことを言ってあげる
思ったことを言うついでに
優しさと呼ばれることもある
あなただって差し出しているのに

受け取るという言葉に
受動と能動を見た
完璧なものに未熟を探す
寄り添うよすがに

ふたりでいる証明
バッドエンドに安らいで
逆説の延長を予感する
画面を消して、手の届くぬくもりを盲信する

2+

【雑記】その日の前夜

3年前の今夜、私は、とても静かな気持ちで病室の天井を眺めていた。明日の夜は自分が自分でなくなってるかも知れない、と他人事のように思いながら。自分のことを意外と落ち着いているように思いながら、いろんなことを考えないようにしていたんだ。考えても仕方のないことなので。逃げて逃げてそこにいたので。だけど私は無事に次の夜を迎え、7日目の夜を迎え、3年後の今、カレンダーのリマインダーが言うまで、あの時見上げていた天井の薄暗い青さとか清潔すぎるシーツの硬さとか忘れて暮らしていた。この3年で1つ分かったことは私は「ちいさな障害」に見せかけた「言い訳」を携えていたんだなということである。これがあるからできない、これさえなければ。でも「これ」がなくなっても、私はそれをしなかった。だったらあれは言い訳だったんだ。でも、まあ、良かったんだ。振り返ってその時取った選択肢や結末を正解不正解で振り分けるくらいなら、向くべき前があると思うので。なんでもない今日、おめでとう!

6+

No.808

きみに好きだと告げたとき
光景を見下ろしている感じがした
菜の花畑を縫って走る赤い電車
膨れた挙句の桜の嵐とちぎれた白い雲

美味しそう、
思わずつぶやいて笑われた
神様がいるとしたら
そんな人であって欲しい

(きっと世界は変わるのに)

ぼくたちは暮らした
百年ずっと一緒だったように
ぼくたちは交わした
百年ずっと待ち焦がれたように

辞書で白夜を引きながら
眠りに落ちた夜
おなじ夢を見たんだ
運命の人とはみんなそう

菜の花畑を抜けてった
赤い電車の終着駅をどちらも知らない
いつか歩いて行こうね
幸せって気づくものなんだね

視界に映るあるものがあって
川が流れて光を反射する
乱れた粒子を映す横顔に
無数の感情が浮かんでは消え

ぼくを、好きである。
というひとつに収斂する
そのさまを見たよ
青い春の中で幸せがふたりを護る

4+

【小説】『ドラマチック・ハル』

車窓の額縁であなたと春が象られ、知ってる。と思った。間違いない、そうだ僕はあなたを知っている。錯覚だと信じたくなくて目を逸らす。目を閉じて深呼吸してまた目を開ける。風景のなかにあなたがいる。世界がある。なんて完璧なんだろう。呼吸も忘れる。吸うと吐くを、どうしてたっけ。なのに鼓動は勝手に高鳴ってる。身に着けていた鎧も、いつしか厚くなっていた仮面も、あっけなく消え失せた。セピア色の本から視線を上げ、あなたが言う。何かを僕に。声が体に染みて透けて意味が通らない。自分に向けられるその音を欲していた。電車は光のただなかを行く。外はこんなに明るいのに、耳元ではずっと星屑が流れるんだ。「血、出てます」。上唇に手をやって、ああ自分の血のことかと理解。裏切られたと一瞬思う。でも、春だ。だけど、春だ。なんなら桜並木を歩きたい。第一印象がどんなに情けなくたって、いつかあなたの一番になるよ。ずっと前、生まれるもっと前に誓ったことを思い出し、僕は第一声を発する。新しい風に百年が弾け、あなたは自分でも気づかずに、知らぬ僕の名を懐かしく呼んだ。

4+

No.807

どうして一人の人間の、幸せを願ったり不幸を願ったりするんだろう。ぼくの思考は忙しないんだろう。多重人格かも知れない。きみが関わってなければ。飲みかけの炭酸水に、いったいどれくらいの砂糖が含まれているか。ほどけた靴紐を結ぶ、後頭部にどれだけの期待を込めたか。他力本願。傷つかないためならなんだってする。その情熱をべつのところに注げたなら。無理だって分かってるんだ。来ない終わりは無いって。出会わない始まりは無いって。希望とか絶望はサンドイッチでしかなくて、毒がはさまってたとしてもぼくはそれを口に入れる。きみがさみしそうに笑うより早く。

4+

No.806

腕は檻ではない、分かってる、でももう、離れらんないな。他人事のように思った。こんなに花が降る日は、世界の終わりを考えてしまう。聞いたこともない歌を歌ってしまう。風に過去の面影を見つけてしまう。妄想に光が挿し、没頭さえ上手くできなかったと自己嫌悪。ゆううつ。という顔を見せたいだけ。(いつか素直に)。飽きさせない方法を他に知らない。ずっとの拘束力を信用してない。車は相変わらず茎を敷くし、花は頭を落とすんだ。降る花が呪いなら、ぼくは安心して眠ってしまうのに。包む腕が鉄の檻なら、思い残すこともないのに。もう大丈夫。だから行くね。自分からそう告げて、嘘の国へ行くんだ。単純なきみに呪いをかけて。泣きそうな理由を、三月のせいにして。

2+

No.805

それはすごいことだよ
誰も言わないから気づかないだろうけど
奇跡と呼んで差し支えないものだよ
そうでなきゃ嘘だよ、ウソなんだ。

山間の暮らしを淡々と流すドキュメンタリー
都会から帰った息子が言うんだ
「やっぱりここに帰ってくると安心しますね」
腕に目元がそっくりの子どもを抱いて

あ、これ、知ってるひと。
思わずそう声に出してしまう。

「何を?」
「ぼくは、この人を知ってるんだよ」
「いまテレビに映ってるこの男?」
「そう」
「おっさんだな」
「優しかったよ」
「ふーん」

あなたは関係を追及しないで「こんな偶然があるもんだね」と言い「偶然しか無いよ」とぼくは答える、心の底から。

愛は、形を変えるところまで含めて愛だね

誓った永遠はいま他の命に注がれて
ぼくはあなたとごはんを食べる
明日ぼくは誰と過ごすんだろう
あさってあなたは誰に懐くんだろう

奇跡と奇跡が寄り添って
想いをひとつもこぼさない
それは強さでも思いやりでもなくて
単なるふたりの臆病だった

チャンネルはクイズ番組に切り替わり
小学生レベルの問題を間違えるあなたを笑う
ぼくの腕はがら空きだったよ
あなたに似た人ばかり探してたんだよ

「おまえ、さみしい顔をしている」
「あなたはそれを指摘するだけ?」
「いいや。慰めることができる」
「頼んでないのに」
「ずるいんだな」
「知らなかった?」
「忘れてた」

星になったら降り注ごう
ぼくが愛したものたちへ
夢のなかまで連れて行きたい
こんにちはもさようならも無いこの今

(忘れてろ)。

3+

No.804

雪の結晶は肉眼でも見えるよ。いや見えないよ。そんなやり取りを繰り返していた。視力が違うんだ。とらえ方ではなくて。結論にたどり着いてすぐ別の話題にうつった。お互いのわだかまりをひとつ消して。話のとっかかりをひとつ消して。あなたをインストールしてぼくの未来が変わるといいな。不幸だと思いたがるずるい自分が生まれ変わることはできなくても、この先ちょっと変わるといい。言えなかった過去、告発すれば認められただろう。しなかったこともルーレットだとしたら、今だけを見ていればいいな。雪は解けて景色が変わる。てのひらにのせても結晶だった奇跡が、花びらに変わっても、ぼくはぼく。あなたはあなた。めぐると言えば安らぎ、あたらしいと言えば慈しむ。ああ、どんなふたりもぼくたちだ。春が来る。

4+